東アジアの情勢が緊迫している。
 北朝鮮がくり返す核兵器とミサイルの実験、これを抑え込もうとする米韓の合同軍事演習と米中、日米、さらにロシアを加えた周辺諸国の駆け引き。各国の政治権力が最新の軍事力を誇示しながら争っている。
 互いに強がって見せているだけで、たいしたことは起こるまい、という見方もある。私たちもそう願っている。
 しかし、北朝鮮は特異な独裁制を敷いている。他方、関係諸国のなかには、最高権力者が不在の国もあれば、最高権力者だけ決まっていて、閣僚以下要職の多くが空席のままの国があり、また両方が揃っていても、国内議論がきわめて乏しい国や、次々発覚する政権スキャンダルの火消しにやっきで、硬直した思考に陥っている国もある。これらの国々の政権下に私たちは暮らしている。
 この現実を、私たちは見過すわけにはいかない。緊迫した情勢下では、しばしば強圧的な言動が勢いを増し、冷静な判断を狂わせることがある。歴史は、戦争の惨禍が権力を持つ者らの短慮によって、民主主義の機能不全の隙間を縫うように引き起こされてきたことを教えている。そして、生命財産を奪われ、傷つくのはいつも名もなき人々であった。
 日本ペンクラブはこうした歴史に翻弄されながらも、悲惨を直視することから出発した作家・表現者の集まりである。私たちは一方で、過去の経験を振り返り、もう一方で、昨今の世界各地で頻発する暴力の応酬を憂いつつ、いま目の前に展開する緊迫した情勢を甘く見るべきではないと考える。
 北朝鮮指導部は、核実験その他の軍事的挑発をただちにやめなければならない。
 そして、周辺諸国政府は軍事力をもてあそぶことなく、あくまで平和的に解決する努力をつづけるべきである。
 私たちは日本と東アジアに暮らす多くの人たち、そして世界の友人たちに、北朝鮮をめぐる情勢に目を凝らし、自国政府の動きを点検し、この地域に平和と安定と自由をもたらす努力を重ねてくださるよう訴える。

2017年4月24日
  日本ペンクラブ会長 浅田次郎

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