2002〜2003

【個人情報保護「修正」法案の廃棄、および抜本的作り替えを要求する意見書】

 個人情報保護に関する政府与党の「修正案」は、各界各層から強い批判を浴び、昨年末に廃案となったものの手直しであるが、およそ修正とは言い難い内容となっている。

 もっとも大きな変更は、旧法案にあった五項目の「基本原則」を削除し、かわって個人情報の「適正な取扱いが図られなければならない」という「基本理念」(第三条)に一括した点にある。
 旧法案の「基本原則」は表現・報道の自由に干渉する危険性を批判されたが、「修正案」はさらに曖昧な「基本理念」としたことによって、かえって主務大臣の恣意的な解釈の余地を広げてしまう結果となっている。明白な「改悪」である。
 日本ペンクラブは個人情報保護法制について、「表現の自由を妨げないこと」と「自己情報管理権を明確にすること」の二点を提言してきた。前者は、他の個人情報を使う立場としての主張であり、後者は、自己の個人情報を使われる立場からの主張であって、両者に矛盾はない。われわれが訴えたのは、いったん万民を捕捉した上で、条件を示して部分的な「適用除外」を定めていく「包括法」によっては個人情報保護の目的は達せられないということであった。事業分野によって収集される個人情報の内容・性質・利用方法が異なる以上、包括的で一律の規制は、ある分野に対しては過剰となって実害をもたらし、ある分野には過少となって実効性の薄いものとなる。
「修正案」もまた旧法案同様、包括法である。主務大臣は、年齢、事業内容や規模、営利か非営利かを問わず、一定量以上の個人情報を取扱うすべての者に報告を求め、勧告と命令を発する権限を持つとされる。
 報道機関や著述業者がそれぞれの「用に供する目的」で個人情報を取扱う場合(第五十条1一~二)、あるいは、他分野の事業者が報道機関などに情報提供する場合(第三十五条2)はその限りではない旨の規定はあるが、「修正案」はわざわざ「報道」とは何かの定義まで書き加えて限定した上で(第五十条2)、主務大臣が当該の個人情報の利用が報道や著述の目的に当たるかどうかの判断を行うとしているのは、明らかに表現の自由への重大な干渉となる。
 いったいどこが修正されたと言えるのか。「報道機関」に「報道を業として行う個人を含む」(第五十条1一)というくだりなど、その珍妙な言語感覚は問わぬまでも、すでに政府が国会で答弁したことの追認にすぎず、主務大臣は表現の自由などを「妨げることがないよう配慮しなければならない」(旧法案)を、「妨げてはならない」に書き換えて修正した(第三十五条1)という点に至っては、論評にも値しない。
 一方、行政機関等の個人情報保護法案の「修正案」を見ると、職員らが個人的動機に基づいて個人情報を不正に取扱った場合の罰則を設けただけであり(第五十三条)、これでは先般発覚した防衛庁の情報公開請求者リスト問題など、職場や官庁ぐるみで行われた不正行為にはまったく対処できない。
 個々人の基本的な個人情報を網羅し、利用している行政機関等にこそ、公正な取扱いをチェックする第三者機関の設置は不可欠であり、同時に利用される側の自己情報管理権が明記されなければならない。これは民主主義社会における「公」と「私」のあり方の原則である。個人情報保護の法制が表現にかかわる自由に干渉せず、かつ実効的であるためには、電気通信、医療、金融信用などの実情に応じた、分野ごとの「個別法」こそが妥当であろう。「修正案」は、市民的自由を侵害するおそれがあるばかりか、肝心の個人情報保護にも役立たないものとなっている。
 日本ペンクラブは個人情報保護「修正案」の廃棄を求めると同時に、政府与党が旧法案の欠陥をとりつくろうのではなく、これまでに寄せられた批判に耳を傾け、法制および法案の構造それ自体の作り替えから抜本的に取り組むよう、強く要望する。

2003年2月17日
社団法人 日本ペンクラブ  会長 梅原 猛