2000〜2001

「P.E.N.の主張 - テロ対策法案について」

 去る9月11日のアメリカ合衆国ニューヨーク市世界貿易センターなどに加えられたテロ攻撃は、多くの市民の生命を奪い、テロリズムの恐怖と残酷さを世界の人々の胸に植えつけました。
 わたしたち日本ペンクラブは、犠牲となった方がたやそのご家族に対し、心からの弔意を表するとともに、あのような市民をまき込むテロ行為に憤りを感じ、二度と起らないことを切望致します。

 被害をうけたアメリカは、テロの首謀者と目される人物を保護するアフガニスタン国のタリバン政権に空爆を開始し、日本政府は、テロと戦い平和を守ることを名目に、米軍作戦の後方支援を約束し、今国会における「テロ対策特別措置法案」の成立をはかって、自衛隊の海外派兵を実現しようとしております。これが憲法上疑義のあることは小泉首相自身が「法律上の一貫性、明確性を問われれば、答弁に窮する」と発言したことでも明らかです。にもかかわらず、犠牲者が出るのを覚悟してでも強行することの背景には湾岸戦争時におけるわが国に対する評価の低さにあることは確かです。
 しかし、わたしたちは、軍事的な支援をしなければ国際的に評価されないという考え方に同調することはできません。なぜならわたしたちは、軍事行動に一切手を染めず、国際紛争を平和的な手段で解決するという生き方を戦後55年の歳月をかけて築き上げてきたからです。日本を批判した外国人は、日本の憲法が国際紛争の解決に武力の行使を禁じていることを知らなかったからでありましょう。わたしたちが他国の憲法をくわしく知らないと同様に、かれらが知らないとしても不思議ではありません。それを思えば、当時、日本の外交担当者が世界に向けて胸を張って明確に説明すべきだったのに、それを怠ったのです。国際的な作戦行動に参加しなければ日本は尊敬されないという論をなす人に、わたしたちは、自国の憲法を守ろうとしない民族が尊敬されるはずがない、と主張します。
 また、国会の承認なしの自衛隊出動は、戦前の悪夢のような統帥権の独立を想起させます。アフガニスタンにおける戦争は、超大国の武力をもってすれば、日本の参加を必要とするはずはなく、テロが報復を生み、報復がテロを生む悪循環を断つために、いまわが国がなすべきことは、過去においてイスラム諸国に一発の銃弾も発したことのない国として、根深い対立の融和に献身することでありましょう。
 わたしたちは「春秋に義戦なし」(孟子)、「戦争の敗者は悲惨だが、勝者もまた悲惨である。真の勝者は戦わない者である」(ウェリントン)という古人の言をいまこそかみしめるべきだ、と信じます。威勢のよい大声を発する政治家に対し、わたしたちは小さな声であろうと、憲法第九条を事実上廃棄してはならぬと粘り強く訴え続けます。

2001年10月16日
社団法人 日本ペンクラブ(会長 梅原 猛)