●通信傍受法の運用に関する質問書
日本ペンクラブでは、これまで通信傍受法の問題点を法案段階から指摘してきた。
同法第十五条には「医師、歯科医師、助産婦、弁護士、弁理士、公証人又は宗教の職にある者との通信については、他人の依頼を受けて行うその業務に関するものと認められるときは、傍受してはならない」と例外規定をもうけているが、ここに「ジャーナリスト」は含まれていない。ジャーナリズムは「取材源の秘匿」を最高の職業倫理としており、したがって国家権力による通信傍受を許せば自由な取材活動は事実上、不可能になる。
日本ペンクラブが六月中に全参議院議員に〈通信傍受に関する公開質問書〉を送付したのは、上記の問題点を含め国会での真摯な審議を促すためであった。
先の国会では第十五条の条文を修正するまでにいたらなかったのは残念であるが、八月三日の参議院法務委員会の法務省刑事局長答弁のなかに運用での見直しが示唆された(そのやりとりは添付の別 紙に抜粋してある)。
そこであらためてお訊ねしたい。
(1) 「報道機関の通信は傍受の対象外として運用としては考えていきたい」と述べ、「取材であると判明した段階ではスポットモニタリングを直ちに中断するということで、運用マニュアル等には、あるいは通 達等ではそれは明確に盛り込みたい」としているが、運用マニュアルの公開を約束していただけますか。
(2) 「例えば当該通話でその対象者たる被疑者等が犯行を自供する、あるいはこういうような内容だということで犯罪内容を打ち明けるような希有な例が考えられますが、この場合はまた別途考えざるを得ないかなというところでございます」と述べているが、こうした場合でも、相手と取材者との信頼関係が存在したうえでの告白であり、それが傍受されるならば取材者は「取材源の秘匿」を守ることができないことになるが、「別 途考えざるを得ない」とは、どんな意味でしょうか。
(3) 答弁の中でしばしば「報道機関の通信」とあるのは、記者クラブに所属する新聞社やテレビ局のみを指しているのかそうでないのかわかりにくい。ジャーナリストは、新聞社に所属する者とは限らず、テレビの場合でもテレビ局に属するディレクターとは限らず制作会社のディレクターであったり、雑誌の編集者や記者であったり、作家であったり評論家であったり、フリーのジャーナリストであったりする。彼らはメディアでの発表を前提に取材をするが、いわゆる「報道機関」には直接に属してはいない。「傍受の対象外として運用」する際に、当然、彼らも含まれると認識しておられますか。
一九九九年九月十六日
社団法人 日本ペンクラブ
会長 梅原 猛
法務省刑事局
局長 松尾 邦弘 殿
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第百四十五国会法務委員会(一九九九年八月三日)〉当該部分の抜粋
○内藤正光君(民主党)
運用上の問題で最後に一点お伺いしたいと思います。この通信傍受法案の持つ一つの大きな問題点はやはり報道の自由との関係だろうと思います。今もいろいろな報道機関の方々が来ていらっしゃいます。これはかなりの興味、関心を持っていることだろうと思います。報道機関並びに報道関係者の持つ電話に対する傍受は全くあり得ないと断言できるのでしょうか。
○政府委員(法務省刑事局長、松尾邦弘君)
結論はおっしゃるとおりということでございます。通信傍受法案でございますが、傍受するためには高度の嫌疑が認められる特定の犯罪の実行、準備等の謀議とかあるいは指示などの犯罪関連通 信に用いられると疑うに足りる通信手段を電話番号等で特定して行うも のでございます。
報道機関には犯罪に関する情報も含めまして種々の情報が集約されるということが考えられるわけでございますが、たとえ報道機関が設置、使用している電話等に犯罪に関する情報が寄せられることが判明したとしましても、そのような報道機関の特質に照らしまして、また報道の自由を尊重するという観点からも、報道機関の電話等を傍受の対象とすることは許されないと考えております。
したがって、本法案による通信傍受が報道機関の取材源の秘匿等を侵害し、報道の自由の制限につながるものではございません。
ただ、今申し上げましたように、報道機関が報道の自由あるいは取材源の秘匿ということで社会的に非常に有用な活動をされているということ、その特質等をいろいろ考えますと、報道機関が取材として行う通 信につきましては、これは原則として通信傍受の対象外にするというような運用は当然考えられるところでございます。
ただ、例外的には、これはもうあってほしくないことでございますが、報道機関の一員が当該傍受の対象となっている犯罪の共犯者になっているというような極めて希有な例が理屈の上では考えられる、あるいは現実にも残念ながら過去になかったことはないわけでございますが、そういった者がする通信につきましてはまた別途の考慮が働くということでございますが、原則として報道機関の通信はこの傍受の対象外として運用としては考えていきたいということでございます。
それから、その例外としてもう一つ触れますと、我々捜査機関がたまたま傍受の対象としている特定の電話がございますという例を考えてみますと、そこに記者の方が取材でかけてくるというケースが考えられます。このケースでも、今申し上げましたとおり、それは取材であるということが判明した段階ではスポットモニタリングを直ちに中断するということで、運用マニュアル等には、あるいは通 達等ではそれは明確に盛り込みたいと考えております。
ただ、その際にも、例えば当該通話でその対象者たる被疑者等が犯行を自供する、あるいはこういうような内容だということで犯罪内容を打ち明けるような希有な例が考えられますが、この場合はまた別 途考えざるを得ないかなというところでございます。
○大森礼子君(公明党)
一般に運用にゆだねるといいますと、乱用の危険が定型的に大きくなると考えられておりますけれども、しかし正当な報道の自由、正当な取材の自由を尊重する、こういう運用の仕方を法務省当局がここで述べられたということは、これは積極的な意味があると考えます。
この報道の自由との関係で、もう既にこれは質問されましたので重ねて聞きませんけれども、一つだけちょっと触れておきたいのは、刑事局長の最後のところで、例えば傍受の対象となっている電話で被疑者がみずからの犯罪について告白する場合がある、その場合には傍受の対象となり得るとおっしゃいました。それはそれで仕方がないのかもしれませんけれども、この取材、報道の自由との関係で、自分がもし記者の立場であったならばどんな場合に困るかなとちょっと考えてみました。
それは、記者というのは、やっぱり取材源については秘匿するといいますかしゃべらないということが知られておりますから、あんただからしゃべるというケ_ スが多くあるのではないかなという気がするわけです。それで、だれにも知られたくなかったら実際に対面して取材すればいいという言い方もできるかもしれませんが、対面しては嫌だという場合もあるかもしれません。
そこで、あんただから話す、信用ある報道関係者であるから話すといって告白した場合、そしてそれが証拠となるような場合ですと、多分その取材者側としては、自分がそういう供述を誘引した、引っ張ったのではないかという気持ちが残って非常に嫌な気持ちになるだろうというふうに思うんですね。それで、結局、そういうことは取材対象者と取材者との間の信頼関係というものを少しずつじわじわと崩していく危険があるのではないかなという気がいたします。
それで、特にこういう点に、報道関係者側の立場といいますか、これも十分配慮していただいて、先ほど刑事局長が述べたような運用をしていただきたいと思うんですが、簡単に御意見をお伺いいたします。
○政府委員(松尾邦弘君)
今の、配慮が必要だということは、まさにおっしゃるとおりだろうと思います。
私が言いました、極めて例外的に傍受するというケ_スにつきましても、報道関係者、記者が当該、まあ暴力団としますか、暴力団の傍受されている電話にかけたところ、向こうがまずいろいろな犯罪事実に関係することを言ったという想定なんですね。その場合でも、あくまで取材だということで、スポットモニタリングしておりますから、取材の言葉があり、犯罪事実に関係しない言葉があればその段階で本来切っていますから、それはもう傍受はしていないことになります。
ただ、さらに希有な事例として、ああおまえか、実はこういうことがあったということで、スポットモニタリングの中でそういう告白があった場合だけですから、頭の中では考える事例ではございますが、現実にはないんだろうと思います。
そんなことを考えあわせますと、原則として報道機関が関する電話は傍受しないというふうに言っても差し支えないかと思います。
○橋本敦君(共産党)
報道機関の関係ですが、刑事局長は報道機関については傍受対象としないということをおっしゃいました。確かにそのおっしゃったことは間違いないですね。もう一遍確認しておきます。
○政府委員(松尾邦弘君)
極めて例外的な場合として一、二、想定を申し上げましたが、それは現実問題としては事実上考えられないケースだろうと思いますので、報道機関の報道に関する通 信については傍受対象としないということを申し上げておきたいと思います。


