活動報告

日本ペンクラブ・追手門学院共催セミナー「紙の本のゆくえ~文学と図書館の新しい挑戦」報告

2009年1月24日(土)午後2時~5時
追手門学院大阪城スクエア

参加者 141名


開会挨拶 山田健太氏(日本ペンクラブ言論表現委員会委員長)

第1部
 講演「ネット社会と文芸著作権」三田誠広氏(作家、日本ペンクラブ)
 講演「ディジタル時代の図書館の役割」長尾真氏(国立国会図書館長)

第2部 パネルディスカッション
 「紙の本のゆくえ―文学と図書館に何が起こっているのか」
  パネリスト 三田誠広氏、長尾真氏、永吉雅夫氏(追手門学院大学・国際教養学部長)、中西秀彦氏(中西印刷専務取締役、日本ペンクラブ)
  司会 湯浅俊彦(夙川学院短期大学、日本ペンクラブ)

閉会挨拶 鈴木多加史氏(学校法人追手門学院長・追手門学院大学長)

■出版業界の危機的状況と進展する出版コンテンツのデジタル化
 日本の出版業界では1996年をピークに出版物の販売金額が減少を続け、出版業界は危機的な状況に見舞われている。新古書店と呼ばれる新刊本を中心に扱うリサイクル型の書店、まんが喫茶/インターネットカフェ、あるいはインターネットで本を販売するオンライン書店における「中古本の出品サイト」の出現といった流通ルートの多様化だけでなく、インターネットによるコンテンツ流通がもたらす出版メディアの相対的な地位の低下が指摘されているのである。
 一方、2007年11月に東京・千代田区立千代田図書館が電子書籍の貸出サービスを開始し、同じく11月に紀伊国屋書店が提供する大学図書館向け電子図書サービス「NetLibrary」に和書コンテンツが本格的に搭載された。
 このような読書をめぐる環境の変化は、出版コンテンツのデジタル化とネットワーク化というキーワードであらわすことが可能である。
 そこで、このような時代状況において文学とはなにか、文学作品の流通・利用・保存とはなにかという論点と、従来、紙の資料を中心に収集・整理・提供・保存を担ってきた図書館の役割とはなにかという論点を同時に考える講演とトークセッションを開催した。

■作家の立場から著作権の問題提起をした三田誠広氏
 三田誠広氏は作家の立場から、現時点での著作権の問題を提起。著作権の保護期間を50年から70年に延長すること、権利者不明の著作物の利用のための簡易な裁定制度を導入すること、そしてアメリカでのフェアユースが日本に導入されることの問題点、グーグルやアマゾンの書籍全文検索の問題点などである。
 また、三田氏は研究者と作家の違いに言及し、研究者は引用されることが業績であり、デジタル化はありがたいと思っているが、筆一本で食べている作家は立場が異なるという見解を示した。
 さらに出版物のデジタル化と図書館の関係について、国立国会図書館がデジタルアーカイブを権利制限の対象としてほしいというのは問題ないにせよ、公共図書館やエンドユーザーに配信するようなことになれば公共図書館は本を買わなくなると危惧を表明した。そして、そのような場合は作家や文芸書出版社に補償金を渡すようにしないと、日本の文化は大きなダメージを受けると結んだ。

■図書館の新しいモデルを提案した長尾真・国立国会図書館長
 長尾真・国立国会図書館長は、2008年4月に日本出版学会における講演で提起した「公共図書館の新しいビジネスモデル」をさらに手直しした案をこのセミナーにおいて初めて発表した。
 長尾氏は10年先には書籍の電子版が普及してくるであろう。それに向けて考えていかなければならないと指摘した。図書館はあくまで無料で本を貸し出すところであり、一方で出版社がつぶれると図書館も困るという関係にある。また著作権の問題をクリアしながらできるだけ多くの人に本を読んでもらいたいと考えており、特に国立国会図書館の場合は東京近郊の来館できる利用者とそれ以外の方との不均衡があるため、その不均衡を解消し、日本全国の方々に貢献したいと講演を締めくくった。

■文学にもたらす変化
 次に紙から電子に媒体が変化することによって文学はどうなっていくのかという議論が展開された。
 永吉氏は、ケータイ小説は「リアル」が特徴であり、「実話テイスト」であることが書き手と読み手に共有されている。今までの小説がフィクションであることを前提とした「リアリティ」を共有していたのとは異なると指摘した。そしてケータイ小説が生まれた背景にはインターネットとメールの環境があり、同時性でしかも記録的という特性が活かされており、従来の作品の「リアリティ」を確保するための修辞を必要としない、排除するところで作者と読者の共感が生まれていると分析した。
 これに対して三田氏は、出版社の編集と作家の関係について触れ、雑誌連載→単行本→文庫→全集といった出版の流れと編集者のおかげで文学が成立していることを指摘した。そして、文学を維持しているのは編集の手が入った質の高さであり、ケータイ小説は状況設定、あらすじしかないなど事実の羅列であり、背景描写、風景描写がない。また文学の場合、登場人物のせりふで微妙な屈折を描写するが、ケータイ小説の場合はそれがない。したがってケータイ小説は文学ではないと結論づけた。
 一方、中西氏は、コンテンツをデバイスが規定する側面もある。新しいメディアから新しいコンテンツが生まれるという意味で、もう少しケータイ小説を積極的にとらえてもよいのではないかと発言した。

■図書館での電子書籍の閲覧
 長尾氏が提案した「ディジタル時代の図書館と出版社・読者」の概念図について、三田氏は公共図書館と国会図書館がネットでつながるようになると、公共図書館が零細出版社の本を買わなくなってしまう。公共図書館から補償金として零細出版社に渡すようにすれば経済的には解決すると述べた。そして全国の図書館の方に団結して図書館を充実させるように自治体と交渉していただきたいと訴えた。

■読者の世代問題
 最後に会場から「日本で電子書籍リーダーが普及しない理由として読者がついていっていないという問題があるのではないか」「電子化され、芸術的なものを除いて紙の本はなくなっていくような話だったが、むしろ電子化されることによって、紙を使う機会が増えているのではないか」という2つの質問があった。
 これに対して永吉氏が、「世代の問題」ということで二人の質問者の問題意識はつながる。若い世代は紙の本を必要としていないということもあるだろう、と答えた。三田氏は人間の時間は有限であり、テレビ、ゲーム、ネットと楽しみに使うメディアが増えており、それらに時間を取られてしまっている。文学全集をノートパソコンに入れて大学の文学部の学生に買わせるなど、パッケージ化することでもっと読むようになってくるのではないかと提案して会場を沸かせた。
 
■さらなる議論を!そして来年もまた関西で!
 出版メディアのデジタル化とネットワーク化が文学に及ぼす影響と、図書館の役割について、国会図書館、作家、文学研究者、印刷会社の立場から討論する場が持てたことはじつに幸せなことであった。今から6年と少し前の2002年9月7日、日本ペンクラブ言論表現委員会主催のシンポジウム「『激論!作家vs図書館』どうあるべきか」が東京・日本プレスセンターで開催され、図書館でのベストセラー本の複本購入問題が論議された。今回の関西でのセミナーでは「紙の本のゆくえ」をテーマに文学と図書館の新しい挑戦を予感させる討論が展開された。反目でも馴れ合いでもなく、真摯な議論を通してこれからの文学作品の流通・利用・保存、そして図書館の役割について取り組んでいくことが必要ではないかと思う。

日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長 湯浅 俊彦