●日本ペンクラブ・メールマガジン「P.E.N.」 第18号2004年9月30日
金丸弘美スピーチ「スローフードって何だろう」
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前号に引き続き、春に開催されましたシンポジウム「第5回 環境の集い」
(日本ペンクラブ主催・アルカディア市ヶ谷)より、第2部ディスカッション
「環境文学とは何だ!?」から、金丸弘美のスピーチを要約して、ご紹介します。
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□「スローフードって何だろう」金丸弘美
スローフードと出会ったのは3年前です。15年前ぐらいから、北海道から沖縄まで
の全国の農村をずっと訪ねてきました。やっぱり有吉佐和子さんの『複合汚染』の影
響も大きいんです。今、安心・安全とかいわれておりますけれど、農村を訪ねて、ど
こに生き物の豊かな本物の田んぼがあるのかということなのです。
日本で今スローフードというと、ゆっくり食べることとか、郷土料理を愛でるとか
、あるいは農水省が地産地消、地の物は地場で食べるというような話が大きく広がっ
ているんですけれども、実は地域の食文化を守って、その経済性を持たせることによ
ってグローバリゼーションに対抗していこうという運動なんです。
はじめ、それがよく分からなくて、昨年と一昨年、イタリアに行き、スローフード
協会を訪ねて、スローフードっていったいなんだろう、ということで取材をしました
。すると、しっかりした哲学を持っていて、運動の仕組みがきっちりとつくられてい
るものだったんです。
「ローマの休日」という映画がありましたが、あの美しいオードリー・ヘップバー
ンが登場する場面が撮影されたところに、1986年に、マクドナルドが入ってきたん
です。これで、地元のレストランの人たちが反対運動を起こしました。こんなところ
にこんなものを持って来られたんじゃ地元の商店がやられてしまう、と。
要するに、どこで栽培され、どこから持ってこられた材料でつくられたハンバーガ
ーかわからないと。これでは商店や農村が疲弊するというので反対運動が起こったん
ですね。
もともとスローフード協会というのは左翼系の労働運動をやってた人たちのグルー
プだったらしくて、イタリア余暇文化協会といっていました。実はここで文学につな
がるんですが、要するに、食文化は地域の伝統なんだと。だからミケランジェロを語
るように食文化も語られるべきだというわけです。
ワインを飲みながら文学と芸術と哲学について語ろうよ、というような会だったら
しいんですが、ワインを飲みながら語っている場合ではなくなった、ということでイ
タリア余暇文化協会も反対運動を起こしたわけです。そのときに、イタリア余暇文化
協会、略称アルチゴーラというんですが、向こうがファーストで来るんだったら、こ
っちはスローでいこうというので、アルチゴーラ・スローフード協会という名前にな
ったんですけど、アルチゴーラでは面倒というので、いつの間にか、スローフードの
ほうが通りがよくなって、スローフード協会という名前になりました。
もう一つ見逃せないのは、我々が関わってる出版の問題です。彼らは、スローフー
ド出版というNPOによる出版会社をつくりました。アメリカでは有名なランダムハ
ウスが欧州の巨大メディア企業(ベルテルスマン社)に買収されたため、元社長のア
ンドレ・シフレンさんは、NPOで出版社をつくりました。
アメリカでは、今、大きなメディアによる買収が進んで、小さな意見がなかなか通
らなくなっている。そういう中で、アメリカとかヨーロッパではNPOでの出版がふ
えている。スローフード協会は政治的圧力、資金的な問題をクリアーできる出版活動
をやろうということで、自分たちの哲学を貫くために、1990年に出版部をつくりまし
た。
それで、その利益によって農家を支え、地域の食文化を支え、それで食を文化とし
て語るという運動が始まり、今や、専任スタッフ110人のNPOです。しかもそのイ
ベントは、行政からお金をとっています。先日引退(後に逝去)した日本マクドナル
ドの藤田田さんは、以前、10歳までにマクドナルドの味を覚えさせれば、マクドナル
ドの天下だということを言いましたね。
そういうことに対抗するために、スローフード協会は、向こうがそうだったら味覚
の教育をやろうということで、子供たちの教育プログラムの中に五感教育というのを
入れたんです。それは、見て、触って、感じて、触れて......。高橋千劔破さんの『花
鳥風月の日本史』の中には、高橋さんがいろんな場所を歩いて、触れて、その四季の
折々を書かれて文学の中に折り込んでいくという話がいっぱい出てくるんですけど、
それと同じことを子供たちに教育プログラムでやっています。
体で感じて、すべて目で見て、触っていく教育をすることによって、あの安価な画
一的なマクドナルドのグローバリゼーションに対抗していこうという運動を始めて、
(イタリアの)教育省、文部省からお金をとって、学校の先生に教育プログラムをつ
くるというところまでやりました。それがスローフード運動なんです。
スローフードは、実はただゆっくり食べるということではなくて、明確な哲学とミ
ッションに裏付けられた、相当したたかな運動であるということがわかりました。ぼ
くがなぜそういうことを学びに行ったかというと、北海道から沖縄まで、全国を回っ
てみて、今安心・安全を皆さん求められていますけれども、その安心・安全というの
が、大量消費、大量生産の中で、ものすごく危ういものになっていることが分かった
からです。
日本の場合は、都市景観はもちろん、農村景観もどんどん崩れていく。高橋さんが
書いていらっしゃる「花鳥風月」も、西洋化の波の中でどんどん崩れていく。それを
経済性を成り立たせたうえで、文化的な価値までもっていく運動を広げたいというこ
とで、この間『スローフード・マニフェスト』という本を書きました。
ただ書くだけでは意味がないというので、三重県のNPOを応援したり、佐賀県の
栄養士学会の人たちや、県知事たちと一緒に食育に取り組んでいます。つまり味覚の
教育ですね。奄美・徳之島では町と食文化調査を始めました。
スローフード協会のペトリーニ会長は、「宣言する前に行動せよ」と言っています
。ぼくにとって一番大きかったのは、やはり、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』
と、有吉佐和子さんの『複合汚染』でした。
これからぼくらの本がすることは何かというと、地域の食文化が一番大切だという
ことで、その有吉さんたちが残した遺産を継承する人たちをつないでいくのが、スロ
ーフードの役割であり、ぼくの役割ではないかなと思っています。
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次号では、第2部ディスカッション「環境文学とは何だ!?」から、
高橋千劔破のスピーチ「歴史の中から環境保護についてアプローチ」
の要約をお届けします。
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<目次>
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林真理子 「悔いる男」
藤田宜永 「左腕の猫」
宮本輝 「夜桜」
C・ブコウスキー「町でいちばんの美女」
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http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/index.html
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夫選)などです(あいにく現在では絶版ですが......)。
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