メールマガジン「P.E.N.」バックナンバー

日本ペンクラブ・メールマガジン「P.E.N.」第6号2004年1月23日

中国亡命作家「鄭義(チョン・イー)さんと環境問題を語る」
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■中国亡命作家・鄭義さんと大江健三郎さんの対談会「自由のために書く」

 去る2003年10月7日、第23回『WiP(ライターズ・イン・プリズン)の日』に日
本ペンクラブは、天安門事件以後、中国からアメリカへ亡命した現代中国文学の作家
・鄭義(チョン・イー)さんを日本に招聘し、ノーベル文学賞作家・大江健三郎さん
との対談会「自由のために書く」を実施しました。

 日本プレスセンターホールで開催された催しには、320名の観客が参加し、熱気と
共感につつまれたなかで、言論表現の自由をめぐる充実した対談がおこなわれました。


 その模様は、現在発売中の月刊誌『世界』2月号(岩波書店、1月9日発行)に掲載
されています。ぜひ誌上でご覧ください。

 鄭義さんの経歴です。
┏━○プロフィール○━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

  鄭 義 Zheng Yi (チョン・イー/てい・ぎ)
  1947年四川省生まれ。文化大革命の時期に山西省に下放。77年に復学、
  普中師範専科学校で学ぶ。89年天安門事件のとき、民主化運動の指導者
  のひとりとして指名手配を受け、中国各地を転々と潜伏。93年に妻とア
  メリカに亡命。現在ワシントン郊外に妻子と住む。主な著書に『古井戸』
  (1985)(JICC出版局、1990、絶版。
  呉天明監督により映画化され、87年第2回東京国際映画祭のグランプリを
   受賞)、『中国の地の底で』(朝日新聞社、1993)、『神樹』(1996)
   、朝日新聞社、1999)など。

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■中国亡命作家「鄭義さんと環境問題を語る」
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  上記の催しの前夜、鄭義さんとペンクラブ会員の作家たちが環境問題に
 ついて語りあい、中国の環境破壊について、なかなか知る機会のない貴重
 なお話をうかがうことができました。
  日本文学は日本の風土、自然の美しさと豊かなかかわりを持っています。
 そこで日本ペンクラブは、世界に先駆けて環境委員会を設置し、シンポジ
 ウムなどの活動をおこなっています。
  ペンクラブ常務理事・高橋千劔破(たかはし ちはや)さんによる随筆
 です。
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「鄭義(チョン・イー)さんと環境問題を語る」
                            高橋千劔破(作家)

 鄭義さんが今最も関心を抱いているのは、中国の環境問題であるという。
 氏には、現代中国の環境破壊を告発する『中国之毀滅』(中国の壊滅)という大著
がある。
 2001年にニューヨークで出版されたもので、そのうちの四編が日本語に訳されてい
る。

 『藍・BLUE』第7・8期合併号所収の金谷譲氏訳による「移民悲歌」「中国の恐
るべき水質汚染」「中国特有の環境災害」と、藤井省三氏訳の『百年の愚行』に収録
された「湖の夢」である。

 10月6日、日本ペンクラブ大会議室で開かれた歓迎会で、鄭義さんは、日本ペンに
環境委員会があること、また環境問題に関する著述や運動をしている理事・会員が少
なくないことを知り、懇談を熱望された。

 とはいえ、氏の滞在日数は限られており、スケジュールも詰まっている。
 ペン側としても対応できる理事を含むメンバーは限られており、調整はむずかしい。
 しかし、鄭義さんの熱意を汲み、10月9日、急遽日本ペンクラブ小会議室で懇談会
を開くことになった。

 ペン側のメンバーは高橋千劔破と元理事で環境委員であった加藤幸子さん、環境委
員会副委員長の諏訪雄三さんの3人。
 それにオブザーバーとして中国語に堪能なWiP(獄中作家委員会)委員の茅野裕
城子さんと、『百年の愚行』の編集者である小崎哲哉氏が同席。通訳は東京大学大学
院生の安西明秀氏が務めた。

 まず鄭義さんの要望に沿って、高橋が日本ペンと環境問題について説明。
 有明海の諫早湾干拓問題を契機にペンクラブに環境委員会ができたこと。梅原猛前
会長が、絶滅の危機に瀕している有明海の干潟にのみ棲息する魚ムツゴロウを主人公
に、戯曲と小説を書いたこと。新井満常務理事が、100年間木を植え続けて新潟県を
森の国にしようというプロジェクトを推進していること。立松和平理事が、岩山とな
った足尾銅山を緑の山に甦らせようと、一握りの土を持参して苗木を植える運動を続
け、今や多くの市民が参加するようになったこと。また、彼は400年がかりで古寺再
建のための森を育てようという運動もしていること。また高橋は、『花鳥風月の日本
史』という本を書くなど、歴史や古典文学から日本の環境問題へのアプローチを続け
ていること、等を説明。

 続いて諏訪雄三さんが、環境委員会の3つの年間活動──シンポジウムを開き、水
の問題・森と川と海の問題等を広く一般に訴えている。環境問題を扱った良書を選定
しインターネットを通じて広報している。教科書で扱われた環境に関する記事をチェ
ックし、より良い環境教育への提言を行っている──を説明。

 加藤幸子さんは、作家である前に自然保護運動家であり、東京湾の埋立地に甦った
自然を保護する運動を十年以上続け、ついに野鳥公園として永久保全に成功したこと、
またその後作家として自然保護をテーマとした作品を書き続けていることを話した。

 こうした日本ペンの環境に関する取り組みに対し、鄭義さんは、「感想など何一つ
ありません。私は今ただただ感動しております」と、私たちに対して何度も大きく頷
いた。

 次いで加藤幸子さんが自著『長江』を鄭義さんに贈呈し(高橋も『花鳥風月の日本
史』を贈呈)、中国の環境悪化についての意見を、自身の旅行体験から述べた。
 それを機に、中国の環境破壊に対する鄭義さんの熱のこもった話となり、議論が白
熱していった。

 鄭義さんはいう。全世界で約8000のダムがあるが、何とその半数の4000は中国にあ
るという。
 ダムによる自然破壊には深刻なものがあり、またダム建設によって土地を追われた
人々の人権はまったく無視され、その惨状は目を覆うばかりである。にもかかわらず
ダムを造り続ける中国政府に対し、鄭義さんは憤りを隠さない。

 1953年、毛沢東が古地図に引いた1本の朱線によって、長江支流の漢江が丹江と合
流する地点に、巨大ダム丹江口ダムの建設が始まった。
 その結果、春秋戦国時代からの古都・隕陽と均州は水没し、広大な田畑が失われ、
30万人もの人々が先祖代々の土地を追われた。

 黄河中流域の三門峡ダムは1960年に完成した。この工事でやはり30万人の人々が土
地を追われ強制移住させられた。だが彼らの多くは移住地を脱走し、故郷を目指して
30年間も苦難の流浪を続けることになった。

 1994年に着工し2009年完成予定の三峡ダムは、長江中流の3つの大峡谷を水没させ、
『三国志』の舞台となった旧跡など多くの貴重な文化遺産を消滅させるだけでなく、
何と150万人の人々をその土地から追う。

 ではそのダムがどれほどの効果をもたらすのであろうか。
 水利関係者の利益と「国家的利益」が優先され、自然と"少数"の地域住民が犠牲
にされた。中国では100万人であろうと1000万人であろうと"少数"に過ぎない。
 丹江口ダム建設によって50万畝の耕地が水没し約100万畝の森林が消滅した。土地
を失った農民は新たなる土地を開墾せざるをえず、さらなる森林破壊が行われた。
 森林面積の縮小により、土壌の流失が相次ぎ、水害と旱魃が頻発する自然災害の多
発地帯となった。

 三門峡地区は、黄河・渭河・洛河によって形成された巨大な三角州であり、歴史的
に肥沃な穀倉地帯であった。だが残された土地は軍部や国営農場に占有され、周囲の
樹木はほとんど伐採され尽くされた。その結果、洪水や日照りが頻発し、虫害が数多
く発生するようになり、沃土はアルカリ土壌の貧しい土地に変わってしまった──と
いう。

 鄭義さんの短編「湖の夢」は、北京の南約100キロの白洋淀と呼ばれる大沼沢地の
話。
 琵琶湖の約半分に相当するこの湖沼は、鄭義さんが20歳のころ、葦が茂り澄んだ水
に豊富な魚介類の棲息する豊穣の水郷地帯であった。だが10数年後、湖沼は干上がり、
動植物が死に絶えるほどの状態となった。
 白洋淀に流入する各河川の上流に100余りのダムが造られたからだ。

 周辺の多くの漁民はやむなく湖底を耕し農業を始めた。ところが1988年秋に大洪水
が起こり、新しい村も畑もすべて水没してしまった。甦った水郷はしかし、「華北の
真珠」といわれた美しい湖とは似ても似つかないものであった。黒く悪臭の漂う汚水
が周辺の町や工場から流れ込み、3年後には大量の死魚が浮かぶ死の湖となってしま
った──。

 水質汚染に対する鄭義さんの憤りも大きい。中国では年間平均で1平方キロ当たり
8600トンの汚水をたれ流しているという。これは世界平均の16.5倍に相当する。
 中国の汚水処理率は極めて低く、ほとんどの汚水は何の処理もされずに排出される。
 その結果河川・湖沼・ダムに汚染が広がり、地下水にも悪影響を及ぼし、今や全国
の90パーセントの都市で、水質の悪化・飲料水の減少による水資源不足が危険水域に
達しているのだという。

 40年ほど前、日本では工場排水による川や海の汚染が進み、水俣病などの公害によ
る人的被害が大問題になった。それを中国は知っていたのか。

 鄭義さんはいう。当時の中国人は、日本の公害を、それこそ資本主義経済がもたら
した悪の極みであり天罰が降ったのだ、と嘲笑していたという。
 それがどうだ、今の中国は当時の日本の状況よりはるかに深刻な公害に苦しめられ
ているではないか、と鄭義さんの義憤は尽きない。

 午後3時半に始められた会談は3時間を経てもなお続き、午後7時近くになってやっ
と終った。
 話はそのほか大気汚染や人権とのからみ、生態系の問題、米国や日本の国際社会に
おける地球環境保護の役割など多岐にわたった。なお双方語り足りぬ思いであったが、
限られた時間の中ではやむをえないことであった。

 最後に、大気や水、鳥や魚などに国境はないのであり、環境問題はもはや一国家の
問題ではなく、ことに中国の自然環境の悪化が周辺の国々や日本、さらに地球全体に
及ぼす影響は大であるということを改めて認識すると共に、これからも私たちは環境
をテーマとした文学を書き続け訴え続けていこう、ということを誓って、会談を終え
た。
 私たち一人一人と力強い握手を交わして日本ペンをあとにした鄭義さんの掌のぬく
もりが、今も私の手を離れない。

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■ペンクラブの催しのご案内

シンポジウム
▼日本ペンクラブ 緊急集会
 「いま、戦争と平和を考える」

▼日 時
 2004年2月6日(金)午後6時開場/午後6時15分開演/午後8時45分終了(予定)

▼会 場
 日本プレスセンターホール(内幸町 日本プレスセンタービル10F)
 東京都千代田区内幸町2-2-1

▼交 通
 営団千代田線→霞ヶ関駅C-4(徒歩1分)
 営団日比谷線→霞ヶ関駅C-4(徒歩3分)
 営団丸の内線→霞ヶ関駅B-2(徒歩4分)
 都営 三田線→内幸町駅A-7(徒歩1分)
 JR→新橋駅 西口<日比谷口>(徒歩15分)

▼定 員
 先着350名(予約不要。当日、直接会場にお越し下さい。)

▼参加費
 500円

▼プログラム
【開会あいさつ】
 井上ひさし(ペンクラブ会長)
 「なぜ日本ペンクラブは戦争に反対か」

【ミニ講演】
 浅田次郎(ペンクラブ理事)
  「イラクへの自衛隊派遣に思うこと」

【フォト&トーク】
 森住 卓(フォト・ジャーナリスト)
  「イラクの子供たちはいま」

【対 談】
 江川紹子(ペンクラブ会員)/森住 卓
  「イラク戦争の爪跡を歩いて」

【ミニ講演】
 加賀乙彦(ペンクラブ理事)
  「戦争と文学・なぜ私は反戦文学を書くのか」

【声明の発表と公開記者会見】
 松本侑子(理事・広報室長)

 <会見者>
 井上ひさし(会長)・下重暁子(副会長)・中西 進(副会長)・阿刀田高(専務
理事)・新井 満(常務理事)・米原万里(常務理事)・高橋千劔破(常務理事)・
吉岡 忍(理事・平和委員会副委員長)

【閉会あいさつ】
 阿刀田高(ペンクラブ専務理事) 
  「平和への願いをこめて」

【総合司会】
 高橋千劔破(ペンクラブ常務理事)

▼お問合せ先
 日本ペンクラブ事務局(安西)
 TEL 03-5614-5391  
 FAX 03-5695-7686

ぜひご参加ください。

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■ペンクラブ「電子文藝館」のご案内
http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/index.html

1月に新しく掲載された文藝作品です。閲覧はすべて無料です。

池島 信平  「狩り立てられた編集者」
綱島 梁川  「病間録」
水野 るり子 「星の間で」
大塚 保治  「ロマンチックを論じて我邦文藝の現況に及ぶ」抄
後藤 宙外  「政治小説を論ず」
堀内 みちこ 「さみしがりやの思い出小箱」
山路 愛山  「徳川家康論」
宮武 外骨  「政教文藝の起原は悉く猥褻なり」
夏目 漱石  「吾輩は猫である」第一
田岡 嶺雲  「嶺雲揺曳」抄
宗内 敦   「わが家わが兄」
佐藤 公平  「林芙美子の年齢」
石川 啄木  「性急な思想・硝子窓」
高田 半峯  「當世書生氣質の批評」抄

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■ペンクラブ編刊行物のご案内
 ◆『こんなにも恋はせつない』唯川恵選
 文庫版 光文社文庫 本体価格571円+税 2004年1月20日刊
 さまざまなコクと毒を持つ美酒の味わい...極上の恋愛小説集

 ◆『水』井上ひさし選
 文庫版 光文社文庫 本体価格514円+税 2003年11月20日刊
 水をテーマとした名作を集め、生命を潤す一冊   
 
 ◆『新選組読本』司馬遼太郎他
 文庫版 光文社文庫 本体価格895円+税 2003年11月20日刊
 幕末動乱の京を駆け抜け、露と散った武闘集団の実像に迫る