●日本ペンクラブ・メールマガジン「P.E.N.」第42号2006年6月23日
第22回「平和の日」の集い(盛岡市) 対談I〜高橋克彦VS西木正明 前編
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日本ペンクラブは、1985年より、毎年3月3日に、全国各地で「平和の日」の
集いを開催しています。
第22回目となる今年は、岩手県盛岡市の岩手県民会館大ホールにて、岩手県・
盛岡市・日本ペンクラブの主催によって行われました。
1800人を超える大勢のみなさまにご来場いただき、高橋千劔破(文芸評論家)
と松本侑子(作家)の司会で進めました。
今年のテーマは、「平和の日に想う こころ・風土・ことば・私たちの暮し」。
以下の8人の書き手たちが出演して、4組にわかれて対談を行いました。
1 高橋克彦(作家) VS 西木正明(作家)
2 浅田次郎(作家) VS 立松和平(作家)
3 森ミドリ(音楽家・エッセイスト) VS 新井 満(作家)
4 宮沢りえ(女優) VS 井上ひさし(作家・劇作家)
このメールマガジン「P.E.N.」では、対談の要旨を順次、ご紹介します。
まず最初は、高橋克彦さんと西木正明さんのトークの前編です。
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■対談I「平和の日に想う・風土」〜高橋克彦VS西木正明 前編
高橋 この10年ぐらい前から、風土というものを、自分が生まれ育ったのはどうい
うところなんだろうとか、そこに生まれ育った自分の意味は何なんだろうというこ
とを、意識的に考えるようになりました。
物書きになった23年ぐらい前からこの10年ぐらい前までは、物書きというのは普
遍的な目で物事を考えていかなくてはとか、特定の地域に縛られてはいけないとか
と考えて、風土というのを避けていました。東北という土地は、とくに20年以上も
前には、いろんな人から認知されている状況ではなく、たとえば西木さんの出身地
である西木町を小説の舞台にしようとすると、とてつもなく説明がいるじゃないで
すか。
西木 そうですね。
高橋 今は積極的に風土というのを自分の作品の中に取り込むようになったのです
が、西木さんの場合、ちょっと違いますよね。
西木 私も物書きになって今年で26年目ですので、少なくとも秋田に関してはかな
りの本数を書いていなければいけないはずなのに、なぜか少ないんです。
どうやらこれは「西木正明」というペンネームに関係がありますね。
私の出身地の西木村は、ついこの間の市町村合併で仙北市になっちゃいましたが、
あまり由緒とか故事来歴のない村名をペンネームに使わせてもらったのは、私はも
ともと素行不良ですから、郷里に顔向けできないような行為に及んだり、あるいは
不祥事を起こした場合に(笑)、歴史のない名前を使った方が、あまり迷惑をかけ
ないだろうと、そんな思いもありました。
そもそもペンネームにトラウマがあって、何となく自分のふるさと周辺について
書かずにきたことも、そのあたりに理由があったような気がします。出身地の村名
がなくなり、これからは不祥事を起こしても、多分、大丈夫だろうと、かなり楽に
なったので、これからは書きますよ(笑)。
高橋 どういうものを書いていきますか? 風土といっても、そこに暮らしている
というだけの風土と、そこの歴史だとか、いろんな意味がありますからね。
西木 秋田と岩手は、山一つ越えただけで、同じ日本人かと思うぐらい、気質が違
います。
岩手は質実剛健で、政治家も立派な方がたくさん出ている。内閣総理大臣は、東
條英機を入れるか入れないかで人数が変わりますが、一応、6、7人いるでしょう。
その点、自慢じゃないけれど、秋田はゼロです(笑)。それは秋田の人間が劣っ
ていると言うことではなくて、政治家の頑張りを必要としないぐらい、生きるのが
楽な風土なんです。厳しい風土の岩手は、質実剛健で頑張り屋さんが多い県だと思
うのですが、高橋さんはそういうことを感じたことはありませんか?
高橋 岩手は、東北の中で相当に虐げられた歴史を抱えています。青森もそうです。
秋田は、どっちかと言うと、早くから朝廷と折り合いをつけたというか、簡単に
折り合いをつけたわけではなくて、出羽では反乱なんかがありましたけれどね。そ
れでも中間のところに身を置いて、うまくやってきた。楽に生きていると言えば、
そういう印象がありますね。
西木 折り合いつけ過ぎのケースが多いんですよ。戊辰戦争のとき、あの「列藩同
盟」から早くに寝返ったのは秋田ですからね。その結果、恨みを買ったりしますが、
やはり、それ以前に風土が穏やかで、江戸時代から食べるに困らない土地柄なんで
す。そこが岩手と違って、大政治家なんかいなくたって何とかなった、ということ
かもしれません。
高橋 そうですか。お酒の消費量が一番多いというのは、やはりそういうのん気さ
みたいのがあるんですかね。
西木 はい、おかげさまで、お酒の消費量は日本一。それから貯蓄率は、日本のビ
リでございます(笑)。
高橋 秋田は自殺率が多いですよね(笑)。
西木 ええ。どんどんと話が悪いほうへ行きますね(笑)。確かに自殺率は日本で
トップです。実は、以前、私はこのことを笑い話のネタにしたんですけれど、最近
はあまり深刻過ぎて、ネタにできなくなりました。とくに高齢化が進む中で、高齢
者の自殺が多いんです。何とかしなければと、県でも今、頑張っているみたいです
が、岩手はどうなんですか?
高橋 我慢する人が多いですよね、岩手の人というのは。だから風土というと変で
すが、秋田の人は我慢せず、どこかにはけ口をもとめるのがうまいというか。
西木 秋田の人はとにかく祭りが好きなんです。角館は僕の出身地の駅がある一番
近い場所なんですけれど、そこに1年のうち362日は祭りのことだけを相談しながら
生きている学生時代からの友人がいます(笑)。角館の祭りは9月の7、8、9日の3
日間で、1年中、祭りのことしか考えてない(笑)。
高橋 西木さんは、秋田県人の性質というのを、かなり受け継いでらっしゃるんで
すか?
西木 かなりそうです。まず、貯蓄しません(笑)。
それから、酒は、30半ばまで実は飲めなかったんです。ウイスキーボンボンでひ
っくり返っていましたから。親父は大酒飲みで、母方が下戸ですから、きっと母方
の血統だと思ってたのですが、因果なことに物書きみたいな商売やっちゃったもの
ですから、40ぐらいからじわじわと酒量が増え、60を過ぎた今、一生の中で一番飲
んでいると思います。これは付き合っている相手が悪い、と人のせいにしています
が(笑)。高橋さんは?
高橋 私は1日2回ずつ、きちんと飲んでいます(笑)。
西木 1日2回ずつって、どういう意味?
高橋 僕は夜に仕事をするんです。そのために午後8時ぐらいに寝る。でも、その時
間に寝るというのは大変で、午後7時ぐらいから睡眠薬代わりにお酒を飲んで寝て、
午前0時か1時ぐらいに起きて仕事します。
それで朝の6時ぐらいに寝るとなると、まぶしくて寝られないから、また酒を飲ん
で寝る。だから、1日きちんと2回ずつ飲んで、1升瓶は2日ともたない(笑)。
西木 飲む量もすごいですが、そういう執筆パターンを持ってらっしゃる方に初めて
会いましたよ。
高橋 えっ、そうですか。物書きって、夜、書きません?
西木 私も夜、書きますよ。でも、朝の7時に酒飲んで寝ることはありませんね。朝
の5時までは仕事しますが、大体、昼間は遊んでいます。高橋さんの場合は「夜型」
ではなく、「夜中型」「深夜型」じゃないですか?
高橋 だから、ひどいときは、2週間ぐらい1歩も外に出ないことがあるんです。昼の
1時ぐらいに起きると、冬なんかもうすぐに日が暮れますよね(笑)。同じパジャマ
と同じ下着で10日なんていうのはザラです(笑)。
西木 これもまた新しい型の作家ですね。「ひきこもり型」というか(笑)。私は昔、
探検部なんてことをやってたんで、アラスカのエスキモー村で二冬ぐらい越冬したと
き、着替えを3、4カ月もせずに過ごしたことがある。でも、高橋さんの場合は、着て
いるものを脱いで洗濯しようと思ったらできるでしょう?それなのにまったく着替え
ないんですか?
高橋 はい。着替えないし、顔も洗いません。だって、人と会いませんから(笑)。
西木 野坂昭如さんは半年に1回しか歯を磨かないとか、五木寛之さんは半年に1回し
か頭を洗わないとか。これはご本人たちがそうおっしゃってるから、間違いないと思
うんですがね(笑)、まさかこんな身近に、似たような方がいらっしゃるとは思わな
かったですよ。こうやっていろいろしゃべってますと、それぞれの風土と作家のタイ
プも、何となく決まってくるような気がしますね。
高橋 いや、岩手の作家は、皆、私のようにひどいタイプじゃないでしょう、きっと。
西木 岩手出身の先輩の作家と言ったら、誰でしょうね?
高橋 まず、宮沢賢治ですね。それから石川啄木も小説を書いてますし、「銭形平
次」シリーズの野村胡堂がいますね。
西木 どの作家も、リアリズムよりも幻想的なものを書くという一つの型があります
ね。
高橋 それは多分、風土だと思います。東北はこんなに農業が盛んなのに、いわゆる
農民文学賞を受賞した人って少なくて、九州や四国の方が多い。こんなに苦しいのに
、どうして優れた農民文学が出ないんだろうと考えてみたら、あまりに苦しいから、
書きたくないんだなと思いました。だって、自分の辛さみたいのって、書きたくない
じゃないですか。
西木 その気持ちは分かりますね。
高橋 その辛さから逃れるようにファンタジーを書いたのでは、と思います。
現在の岩手県で言うと、ミステリー作家が圧倒的に多いんです。それはやはり、現
実逃避というか。作家って、自分にないものを書こうとする。すごく悪い人がすごく
いい小説を書いたりみたいなことって、あるじゃないですか。
西木 確かに、ものすごくリリカルで美しい作品を書く作家で、人柄はこれ以上悪い
のはいない、という人もいますね(笑)。
秋田の先輩の作家では、『蒼茫』で第1回芥川賞を受賞した石川達三さんがいます。
ブラジル移民の話をお書きになっている。それからあと有名なところでは、『蟹工船
』の小林多喜二。
非常に楽で穏やかな風土なのに、書くものは社会派的、あるいはプロレタリア的で
、岩手とは対照的です。だから、やはり、自分が身を置いている風土とは逆のものに
行く傾向があると思います。それなら、自分は何やってるんだろうと思いますけれど
ね。
高橋 西木さんがこれから風土というものを小説の中に取り入れていくとしたら、ど
ういう小説になるのでしょうか?
西木 私が直木賞をいただいた短編集の中にマタギを書いた作品があります。今年み
たいな大雪の年に、マタギの家の脇でブルドーザーが道路の雪かきをした。その雪が
彼の家の窓ガラスを塞いだので、そのマタギが怒って「やめてくれ」と言ったけれど
も、除雪する方は聞かなかった。頭にきた彼は猟銃を持ち出して、ブルドーザーの運
転手を撃ち殺してしまった。これは実際にあった話なんです。
私も普段、いい加減な生活をしていて、近・現代の現実の事件などを題材にして書
いていると、俺も所詮、秋田の甘い風土から出てきた作家かなという感じがします。
同じ事件物を書いても、高橋さんは『炎立つ』のような、蝦夷の本流みたいなものを
書いていらっしゃる。僕はまだそういうものを書いていません。
高橋 これから書かれるおつもりは?
西木 書きたいという気持ちはありますが、古代史の中で敢然と中央と向き合って戦
った人物をまだ見つけてないんです。
一昨年に、院内銀山という銀山にいた秋田出身の医者・門屋養安のことを書きまし
たが、養安が残した日記をベースにしたものです。要するに、毎日、朝起きて、患者
を診て、途中で気が向けば酒を飲んで、夜、誰かに呼ばれて酒を飲んで......という、
結局、何のことはない、私と同じような典型的な秋田人です。よく言えば人がいい、
悪く言えばだらしがない。そういう人間を書いているわけですね。
だから、いわゆる近・現代史の中のシリアスな事件とか人物なんかを書こうとすれ
ば、秋田から探すのは結構難しい。南極大陸に行った白瀬ノブ(漢字『森』の『木』
と『直』を置き換えた字)という探検家がいるんですが、大体、そういうふうにどこ
かに行っちゃう人が多い。
高橋 秋田に残って何かをするというんじゃなくてね。
西木 ええ、どこかに行っちゃうんです。それっきり帰って来ない人もいる。
高橋 僕と同じに蝦夷のアテルイを書いた熊谷達也さんは、宮城県の登米の出身なん
です。多賀城の近くですから、完全に朝廷に取り込まれた蝦夷の地域です。そうする
と、彼が書く蝦夷は、すごく複雑な性格になっている。
僕の場合は、わりとストレートに蝦夷の怒りみたいのをぶつけられるんだけれども
、熊谷作品は、どこか朝廷に遠慮しつつ、いろんなものを見ながら前に進んで行くと
いうタイプの蝦夷を書いてます。つまりは生まれ育った土地が、知らず知らずのうち
に小説にも影響しているのかな、と思いました。西木さんが秋田のことを書こうとす
るときはどうですか。
西木 やはり物書きというのは、ないものねだりをしちゃうわけです。だからつい、
シリアスなものを探そうとしたりしますが、自分が生まれ育った近所のお父さんお母
さんを題材にして素直に書けば、それで実はいいんだろうと思うんです。
ところが、なかなかこれが難しい。私の故郷は典型的な農村、山村なんですけれど
も、そういう人たちのことを書くと、やはり笑い話になっちゃうんです。
高橋 それもまた、一つの風土なんですよね。
西木 ええ、秋田音頭になっちゃう。それもかなり色っぽい笑い話になっちゃうんで
す(笑)。それを書くには、自分の人生修養が足りないなというような感じもありま
すね。
高橋 西木さんがこれまでに書いてきた小説ともちょっと違うものになりますよ。
西木 まあ、いよいよ自分の人生もこれで終わりだという時期が来たら、思い切って
近所に怒られるのを覚悟の上で、全部バラすつもりで書こうと思ってもいます。
高橋 今まで書きたくて書けなかった話というのは、やはり相当あるわけでしょう?
西木 ありますよ。書いちゃえばいいんでしょうけれど、つい調子に乗って本当のこ
とを書いて、ここで止めときゃいいのにその先まで書いちゃって、周りの人から総ス
カンを食うとか、そういうことになりかねない。
高橋 西木さんはそういうタイプじゃないでしょう。
西木 いえいえ、案外、普段は臆病で小心者でね。でも、文章を書くと、どこか遠く
へ行っちゃうところがあるんです。
(対談の後編は、次号のメルマガでご紹介します。どうぞお楽しみに)
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■声明の発表
2006年5月15日、日本ペンクラブ大会議室にて、声明「共謀罪新設法案に反対し、与党
による強行採決の自制を求める」を発表し、井上ひさし会長ほか、役員、理事が出席
して、記者会見を行いました。
声明の全文は、ペンクラブの公式HPに掲載していますのでご覧下さい。
http://www.japanpen.or.jp/seimei/index.html
この声明発表は、当日のNHKのテレビニュース、翌日の新聞各紙で報道されまし
た。
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■ペンクラブ「電子文藝館」のご案内
4月〜5月に新しく掲載された文藝作品です。
*招待席
佐藤 紅緑(さとう こうろく 小説家・劇作家・俳人)「行火(あんくわ)」
神西 清(じんざい きよし 小説家・翻訳家)「雪の宿り」
中島 湘煙(なかじま しょうえん 民権家・思想家)「同胞姉妹に告ぐ」
岡本 清一(おかもと せいいち 政治学者)「デモクラシーをめぐる争い」
小山内 薫(おさない かおる 劇作家)「息子」
佐々木 味津三(ささき みつぞう 小説家)「名君修業」
*短歌・俳句
藤田 湘子(ふじた しょうし 俳人)「てんてん 抄」
前田 夕暮(まえだ ゆうぐれ 歌人)「夕暮秀歌百首」
*評論・研究
門 玲子(かど れいこ 女性史研究家)「只野真葛小伝」
大原 雄(おおはら ゆう ジャーナリスト・評論家)「遠眼鏡戯場観察 抄」
*読者の庭
榛原 六郎(はいばら ろくろう)「小説の原初」
閲覧はすべて無料です。ぜひごらんください。
http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/index.html
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「ぺんぺん草」
FIFAワールドカップドイツ大会が開催中ですね。
国際ペン大会も2006年はドイツ(ベルリン)で先月開催され、日本ペンクラブから
代表2名が参加しました。
日本ペンクラブは国際ペンの一員であり、アメリカン・センターに次ぐ規模を持っ
ています。現在、101ヶ国に、144のペンセンターがあります。
国際ペンの日本支部として、これからも国の内外を問わず、表現の自由と平和を守
る活動を展開していきます。


