●日本ペンクラブ・メールマガジン「P.E.N.」第35号2005年10月26日
第21回平和の日の集い(松山市)対談IV〜落合恵子VS井上ひさし その1
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前号に引き続き、今年3月、愛媛県松山市にて開催した「平和の日」の集いより、
対談の要旨をお送りいたします。
作家の落合恵子さんと井上ひさしさんが「私たちの暮し」について語ったトーク、
その1です。
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■リレートークIV「平和の日に想う私たちの暮し」〜井上ひさしVS落合恵子 その1
井上 落合さんは、皆さんよくご存知のように、最初、文化放送のアナウンサーで、
「レモンちゃん」と呼ばれて一世を風靡し、その後は小説、エッセイ、絵本、社会
評論などをお書きになっている上に、身上相談の回答者、出版社・書店の経営もな
さっています。それから女性たちの避難所と言いますか、そういうものもやってら
っしゃるんですね。
落合 女性たちとグループを作って、平和に暮らすひとつの基礎として、男性も女
性も、異性愛者も同性愛者も、対等な人間であることを広げたいという思いでやっ
ております。
井上 それで今は、お母様を介護する娘としてのお仕事、人生のお仕事もおありに
なる。いろんな方面で活躍なさってますが、まずうかがいたいのは、どうしてこん
なふうにいろんなことをするようになったのか、この世界をどう考えているのか、
ということですね。
落合 すべてに満足をしていて自分の気持ちが安定し、すべて穏やかに日々が過ぎ
ていったら、私はきっと何もしないまま過ぎていったろうと思います。
この世界を表面的ではあっても、見ていけば見ていくほど、どうしてなのとか、
私はやっぱり許容できませんとか、異議ありとか、そういった思いをいつもどこか
で抱いていた。
ただ、その思いが自分の中で発酵しすぎるのは嫌なので、もう少し扉や窓を開く
方向に行こうかなと思っていると、目の前に偶然に、例えば子供の本の、教育の、
女性の人権の、平和の問題などが出てくるんですね。
そんなふうに、その時々に目の前に流れてきた木の葉の上に乗っかっちゃってる
のかなあという気がしますね。でも、これはちょっと逃げられないなあと思うと、
行きますって感じになるんですね。
井上 今、一番逃げられない問題は何ですか?
落合 私は母が大好きですから、母の介護、これは逃げられない。
母だけではなく、私の大好きな先輩の方々が介護を必要とする年代になってます
から、可能な限り、それもやりたい。母の介護に関わっていると、うれしいとか悲
しいとか感情生活の原型のようなものがある。この原型のうれしさを大切にしたい。
それが地続きのところでイラク問題にもつながっているということを、体感とい
うのか、非常に近くに感じるようになりました。
もうひとつは、やばい時代になったなあ、としみじみ感じます。
だから、今、最も関心があることであり、逃げられないことというのは、平和で
あり、人権であり、ですね。
戦争がないことだけが平和だと私は思いませんから、まだたくさんある差別の問
題も、肩に力を入れないで、当たり前のこと、息を吸ったり吐いたりすることと同
じように思っています。井上さんにとってはどうですか?
井上 まさかこんな世の中になるとは思いませんでした。
私は昭和9年生まれで、戦争が終わった時、山形県の田舎の国民学校の5年生でし
た。
それまでは、君たちは20歳までは生きられない、その前に国のために死ぬんだ、
と先生から言われてました。先生が作ったベニヤ板の戦車に座布団爆弾を抱えて飛
び込む訓練もしました。
それで8月15日に、寿命があればいくつまでも生きていていいという時代がきた。
いくらでも生きてもいいと言われた時のうれしさ、8月17日の夕方に町の明かりが点
いた時の喜びと感動がありました。解放感というか、生きる力というか、勇気とい
うか、そんなものを子供なりに感じた時期が、昭和20年の8月にはあった。
ところが、60年経つ間にだんだんと、いつまでも生きていられない、国のためな
ら君はいくつで死になさい、という時代が意外に近くに浮き上がってきたので、こ
れほど急速に世の中が変わるものだろうか、とちょっとあわててます。
落合 盗聴法などがどんどん決まっていった1999年、あそこがひとつのきっかけか
なと思うのですが、まさかと思っているようなことが次々と決定されていって、次
々と当たり前になっていってしまう。
きっとこうやって、私の母の世代は戦争に巻き込まれていったんだろうなあと思
う。ごく普通の生活をしていて、あっと気がついたら、と言わざるを得ないような
感じの時代が来ちゃったなと思います。
井上 今、世界には戦争を代わりにやってくれる民間戦争会社というのが40社近く
ある。
イラクでドンパチをやるのはアメリカ兵ですが、そのための弾薬を運ぶ、食事を
作る、作戦を立てるなどを12社の民間戦争会社がやっている。
後方支援の自衛隊は、実はこの民間戦争会社と同じことをやっているわけですね。
そんなところで命を落とすなんていうのは、無茶苦茶と言うか、悲しいと言うか、
許せませんね。
落合 何年か前のことですが、自衛隊員の妻からお手紙をいただいたことがありま
す。
息子さんが2人いて、下の子が「お父さん、戦争に行くの? 死んじゃうの?」
と聞くんですね。
ちょっと年上のお兄ちゃんは、弟の質問に答えられない。弟に何度も聞かれたお
兄ちゃんは黙って部屋を出て行って、自分がすごく大事にしていた玩具、いつもは
あげないと言っていた玩具を持って来て、弟にあげたというんですね。それを聞き
ながら、私は何も言えないで小松菜を茹でてます、という手紙ですが、これを今、
まさに味わっている方々が大勢いらっしゃるわけです。
井上 日本国憲法というのは、戦争になったら本当に弱い憲法なんです。戦争放棄
ですから。だから、戦争にならないように生きていくしかない。
世界の情勢を敏感に感じながら、何かおかしなことがあったら、声を上げる、行
動するということです。
弱い憲法なんですが、平和を強く望んでいく時に強くなるということですね。
落合 私は若い人たちと接すると、恋をしようよ、と言うんですね。
誰かをものすごく好きになるというベースに平和がなかったら、もうそれで終わ
りになっちゃうんだから、いろんな言葉で、あるいは私たちの生き方を通して、語
っていきたい。
日常の生活感の中から大事なものを見つけ、自分の大事なものを失いたくないか
ら、やっぱり戦争は嫌なんだよ、とやっていくしかないのかなと思いますね。
井上 そういう日常の一瞬一瞬がどれだけ大事かということですね。
弱い憲法だと言いましたが、日本国憲法を貶すためではなくて、この弱い憲法が
実は強いという証拠として、世界ではコスタリカとかフィリンピンとか戦争を放棄
している人たちのために、いろんな国際条約が整備されているんですね。
だから、日本だけにいると、どこか近くに危ない仮想敵がいて、何をぶっ飛ばし
てくるか分からない、何とかしなきゃ、というふうになってしまいますけど、ちょ
っと視点を変えると、いろんな動きがあることが分かる。
百年前ぐらいからハーグ平和会議とかいろんな国際会議がなされて、その中で整
備されてきたあるひとつの国際法が、無防備都市という考え方ですね。
オープン・シティ、開かれた都市で、第2次世界大戦中はローマ、パリがそうで
した。
1977年にはジュネーブ諸条約追加第一議定書ができて、無防備都市宣言をした地
域を攻撃したら国際裁判に問われるという罰則がつきました。
そうやって、戦争はしたくない、戦いたくはない、という人たちのために、世界
の大きな動きとしては百年間でそこまできているんです。
そのもとになっているのが日本国憲法で、私たちは日本国憲法の値打ちというも
のをまだまだ知らないな、と自戒も含めて思います。
落合 日本国憲法をとてもこわい方向に持っていくというのは秒読み段階になって
いて、私たちは本当に瀬戸際に立ってるんだなあと思いますね。まさかこの4、5年
でそうなるとは思わなかった。
井上 あなたは何の権利があって、私たちの未来を憂鬱にするんですか、と言って
やりたいですね。ただ、日本人は今の首相を支持してますから、結局はわれわれに
返ってくるんですが......。
落合 平和に生きる権利や差別に対する権利、そんな当たり前の権利のもとにこの
60年が過ぎたと思うんですね。私はちょうど終戦の年生まれですから、この60年は
私の年齢でもあるわけで、何なのという思いと私たちはもうちょっと怒ってもいい
んじゃないって、焦れったくなることがありますね。
井上 やはりもうちょっと怒らないといけないですね。暮らしなんていうのは、ど
んなに結構な暮らしを心がけていても、外側全体がおかしくなったらいけなくなっ
てしまう。
これは戦争中に散々体験させられたことです。アメリカの言語学者・哲学者でベ
トナム戦争を批判したノーム・チョムスキーは、「今、ニューヨークのレストラン
に行って、お客さんの肩を叩いて、これからイラクへ人を殺しに行ってくれと言っ
たら、誰も行かない。でも、イラクを放っておくと、何されるか分からない、こっ
ちがやられる、ということを説明できれば、彼らは喜んで兵隊に行く」と言うんで
すね。
つまり、われわれは普通、人を殺したいなどとは誰も思わないけど、何かお題目
があると、国のためだとか、平和のためだとか言いながら人を殺しに行く。この辺
ですね、ポイントは。
落合 今はアメリカの国籍になったマリア・オセーイニという女性のフォト・ジャ
ーナリストがいるんですね。
レバノンの生まれの彼女は、子供時代に戦火の中をずっと生きてきて、一家でア
メリカに移住した。自分は助かったわけですね。
その後ろめたさがずっと彼女を苦しめていて、フォト・ジャーナリストになって
から、世界中の戦火の中の子供たちを報道する仕事を選んだ。
戦火の中の8歳か9歳の少年に、「大人になったら、何になりたいの」という質問
をしたら、その子がじっと考えて、「大人になったら、子供になりたい。だって僕
は子供時代がなかった」と答えている。
私たちも子供に聞きますが、それはその子は大人になるよ、という当たり前の保
証を頭に置いた上で聞いているわけです。でも、それが叶わない子供が、あるいは
飢餓の中の子供が大勢いる。
それらは遠い国の不幸な出来事ではなく、まさに私たちも加担し、もしかしたら
目の前の現実になりうるのかもしれないと思った時に、どこかで沈黙を破れる1人
ひとりでありたいなと思いますね。
文章=理事・会報委員会委員長 清原康正
(続きは次号に掲載します。どうぞお楽しみに)
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■声明の発表
2005年10月17日、「『共謀罪』新設に反対し、廃案を求める声明」を発表し、
政府関係各省庁、各政党他、さまざまなメディアにお送りしました。
声明の全文は、ペンクラブのホームページをご覧下さい。
http://www.japanpen.or.jp/seimei/051017.html
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■第3回国際文化フォーラム「読書と文化」のご案内
文化庁と日本ペンクラブの共催により、座談会を開催いたします。
「アジアのこどもと読書‐アジア女性作家の視点から‐」
開催日 : 2005年11月5日(土)15:00PM〜18:30PM
場 所 : 丸ビルホール(東京都千代田区)
内 容 : 作家自身がこどもの頃に読んだ本、自分のこどもに読み聞かせた本に
ついて語る。
1. 座長挨拶 阿刀田高
2. 基調講演 高樹のぶ子
3. ショートレクチャー
デヴィ・アングラニエ(オーストラリア)
パタマポン・ブサパツムロン(タイ)
潘向黎(中国)
4. パネルディスカッション
入場料:無料
定員:先着300名
お申し込み方法:ファックスまたは往復ハガキにて。受講証をお送りいたします。
「『アジアのこどもと読書』希望」と講座名を明記し、
代表者の住所、氏名、電話番号(FAX番号)、希望人数をお書き添えの上、
下記までお申込み下さい。
□往復ハガキ -- 105-0004 東京都港区新橋2-13-8新橋東和ビル3F
第3回国際文化フォーラム事務局
(代表者氏名・住所を返信用宛先に記載して下さい)
□ファックス -- FAX 03-5511-1505
お問い合わせ先:第3回国際文化フォーラム事務局 電話03-5511-1514
ご参加をお待ちしています。
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■新刊文庫のご案内
『こころの羅針盤(コンパス)』
五木寛之選、光文社文庫、552円+税、10月20日刊
〜こころと人生の道標。30人の生きる羅針盤(コンパス)〜
目次
長田弘「最初の質問」
川上弘美「春の憂鬱」
田口ランディ「雨とフラダンス」
村上春樹「ロールキャベツを遠く離れて」
椎名 誠「コノヤロウの春先なのだ」
藤原新也「父の遺言」
柴門ふみ「男は、悲しい過去を語る女に弱く、女は、未来の夢を語る男に弱い」
林真理子「Sどき、Mどき」
穂村 弘「人生の経験値」
曾野綾子「時の変質----妻が見慣れた家具のようになる」
佐藤正午「四十歳」
浅田次郎「ハゲについて」
鎌田 實「魂への心くばり」
中島らも「ひかり号で飲む」
ビートたけし「人生観の訂正」
中村うさぎ「うさぎの行きあたりばったり人生」
林 望「夫婦の年輪」
阿川佐和子「めずらしく死について」
灰谷健次郎「すべての怒りは水のごとくに----ある少女の声」
阿川弘之「亡国の予感」
星野博美「癒しのまやかし」
江國香織「知る余地のこと」
山田詠美「貧乏臭さ追放月間」
辻 仁成「Xへの手紙」
瀬戸内寂聴「松久朋琳先生の雨の声」
小川洋子「祈りながら書く」
倉橋由美子「夜 その過去と現在」
ひろさちや「ほとけさまに預かった子」
清水義範「身勝手な若者に爆発寸前の大人へ」
城山三郎「楽しみを求めて」
2002年10月、光文社より四六判として刊行したものを文庫化したものです。
全国の書店で好評発売中です。
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■ペンクラブ「電子文藝館」のご案内
10月に新しく掲載された文藝作品です。
*小説
小中 陽太郎(こなか ようたろう)「ラメール 母」
早乙女 貢(さおとめ みつぐ)「叛臣伝」
閲覧はすべて無料です。ぜひごらんください。
http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/index.html
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「ぺんぺん草」
今号のメルマガでは、新刊文庫『こころの羅針盤(コンパス)』の全執筆者と
タイトルをご紹介しました。
編集子も、この本を読んでみました。
30人の作家のエッセイですから、ユーモラスな内容から、しっとりした余韻を
残すものまで、多種多様な作品が集まっていて、本当におもしろくて贅沢な随筆
集でした。
とくに後半の宗教、祈りについての作品は、選者の五木寛之さんならではのセ
レクションだと思います。
読書の秋、ぜひご覧ください。


