●日本ペンクラブ・メールマガジン「P.E.N.」第32号2005年9月1日
第21回平和の日の集い(松山市)より 対談2〜阿刀田高VS浅田次郎 その3
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前号に引き続き、今年3月、愛媛県松山市にて開催した「平和の日」の集いより、
対談の要旨をお送りいたします。
人気作家の阿刀田高さんと浅田次郎さんが「ものがたり」について語ったトーク、
その3です。
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■リレートーク2「平和の日に想うものがたり」〜阿刀田高VS浅田次郎 その3
阿刀田 浅田さんは長編をベースに合間に短編を書いておられますが、困らないで
すか?
浅田 いや、困りますよ。だって、長編を書く時と短編を書く時では、エネルギー
が全く違うでしょう。
でも、僕は本当は短編がダメで下手くそなんですね。僕の短編というのは長編を
縮めたもので、本当の短編作家というのは、ある部分をすぱっと切り取って見せる
ものですよね。自分でもそう思って、いやいや短編を書いているんですけどね(笑)。
阿刀田 私は逆に、明らかに短編を長くしたものを長編にしている。それは自分で
も自覚していますね。
絶対と言っていいほど長編の書き手であるのが司馬遼太郎ですよね。一番短い作
品でも百枚くらいはあって、あそこまで徹底して長編を書いた書き手というのは、
そう多くはないと思いますね。
先輩の偉大な二人の作家、司馬遼太郎と松本清張の作品で言えば、私は松本作品
の八割以上は読んでいて、司馬作品は少ないのですが、『国盗り物語』にはものす
ごく影響を受けました。車の両輪のように長編も短編も書かないと読者の要求に応
えることはできない、小説の王道は長編じゃないか、という思いがあって、自分も
長編を書きたいな、織田信長なんか書いたら素敵だな、と思っていました。
でも、司馬遼太郎の『国盗り物語』を読んで、この人の後で信長などを書く気力
がなくなりました。日本の魅力的な人物は誰かがすでに書いていて、もう書けない。
だから、私の書いた長編は、ほとんどが海外ものなんです。
本来、小説は人間の生活とか風土と非常に関係あるものですから、異国の物語を
書くというのは大変なことで、ほとんど無理なことじゃないかと本当は思っている
んですよ。魅力的な人物を先に書かれてしまっていて、辛いなあっていうこと、浅
田さんにもあるでしょう?
浅田 それはありますね。前に誰かが同じ人物を書いているということは、小説家
としてプレッシャーでもあるし、今さらとも思いますしね。
恐らく、司馬さんはそれを一番考えた人じゃないかと思いますよ。だから『国盗
り物語』では、織田信長ではなくて、斎藤道三なわけでしょう。『坂の上の雲』で
は、秋山兄弟という誰も考えつかないところに発想がすっといく。
司馬さんは歴史小説を沢山書いてますけど、ターゲットを当てた人物というのは、
必ずしもメジャーな人物ではないですからね。完全なマイノリティとか下層の人で
もないから、その上の人物も下の人物も書ける。時代を俯瞰して、ちょっと離れた
脇役のことを書くんですね。小説の作り方として一番面白くなるところを選んでま
すよね。
阿刀田 司馬さんがそれをやったので、後から小説を書く人は大変ですよね。小説
家というのはクリエーターだから、人が前にやったことはやらないし、やりたいと
思っている人は小説家にはなれないですね。
浅田 だから、似たような小説があると言われると、ドキッとしますよね。(笑)
阿刀田 それと、面白い話があるから小説になりそうと持って来てくれる話は、8
割から9割方、役に立たない。
なぜかと言うと、素人の方は過去の作品を見ているんです。今までこういうこと
が小説になったはずだと過去を見て、これは小説になるでしょうと言うんだけど、
書き手にとっては魅力的なものではないですね。
浅田 これがまた、いっぱい来る。ファンの手紙もあるし、親類・友人なんかから、
これを書け、あれを書けって(笑)。でも、面白いものはないですよね。
阿刀田 似ていると言われる小説も、表面的なところでは似ているかもしれないけ
ど、案外似てないことがある。
実は正直なところ、短編を八百も書いてますと、誰かのアイデアにヒントを得て
ということはある。あるけれども、自分なりにひねっていますから見つけにくいん
です。見つけられるようではダメで、似てますよと言われてドキッとするけれども、
本当に似てたケースというのはないんじゃないでしょうかね。
浅田 そっくり持ってきちゃったら、まずいですけどね。
阿刀田 明らかにこれを持ってきたというのは説明のしようがないけど、文章が似
てるということはあるかもしれませんね。偶然に同じことを発想することもありま
すしね。長いこと書いていると、自分が思いついたことなのか、本で読んだことな
のか、分からなくなってくることがあって、非常に怖いこともありますね。
ところで、この松山は食べ物がおいしいし、民度が高い素晴らしいところで、私
にとっては大変気がかりな土地で、今は申し上げられないけれど、実は小説の題材
にしようと思っていることもあるんです。
浅田 僕は東京生まれの東京育ちなものですから、松山にかぎらず、地方の都市に
行くと、本当にうらやましく感じるんですよ。
どうしてかと言うと、東京には東京生まれの東京人がほとんどいなくなって、東
京固有の文化というのは実はもう滅びちゃってるんですよね。
地方に来ると、言葉が残っている。方言が残っているということは、伝承もたぶ
ん残っているだろう、代々つながっている家もあるだろう、というふうに考えると、
とってもうらやましい気持ちになりましてね。
物語を大切にするということは、都会の人には本当はできない。そのシステム自
体をもう失ってしまっていると思います。
物語の基本というのは、自分が子供の時におじいちゃんおばあちゃんから聞いた
昔語りであるとか、わが家の物語であるとか、自分たちの歴史的な経験談であると
か、そういうものであり、それを孫に語り伝えていくというのが、物語の本当の原
型だと思う。
それを忘れずに、正確に伝えていくことが、地方都市の素晴らしい文化だと思い
ます。
阿刀田 結論が出たところで、時間がきたようです。どうもありがとうございまし
た。
文章=理事・会報委員会委員長 清原康正
(次号は、作家の新井満さんとエッセイストの三宮麻由子さんの対談を掲載します。
どうぞお楽しみに)
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■公開講座のご案内
日本ペンクラブ発「ペンの学校」
「作家の眼、創作の芽」というテーマで、自作を生み出すきっかけとなる着眼点、
つかみ取った作品が芽生える瞬間について、さまざまな書き手が語ります。
来月の講師は、ごらんの通りです。
第6回 9月17日(土)15:45〜17:15 立松和平(作家)
受講料(税込)
各1回 カルチャーセンター会員3,150円 一般3,670円
会 場 朝日カルチャーセンター
新宿住友ビル(新宿区西新宿2-6-1)
交 通 地下鉄 大江戸線「都庁前駅」A6出口直結
JR「新宿駅」西口より徒歩8分
お申込み先・お問い合せ先 朝日カルチャーセンター 電話03-3344-1945(直)
(月)〜(土)10:00〜18:00(日・祝日は休み)
どうぞご参加ください。
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■ペンクラブ「電子文藝館」のご案内
8月後半に新しく掲載された文藝作品です。
*反戦・反核
五味川 純平(ごみかわ じゅんぺい 小説家)「不帰の暦」
*評論・研究
阿部 眞之助(あべ しんのすけ ジャーナリスト・評論家)「山縣有朋」
閲覧はすべて無料です。ぜひごらんください。
http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/index.html
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「ぺんぺん草」
ペンクラブの広報室では、創立70周年のこの秋から、季刊の「二ューズレター」
をマスコミ各社にお送りする予定で、今、第1号にむけて準備を進めているとこ
ろです。
この「メールマガジン」とあわせて、広報活動の柱にしていきたいと考えていま
す。
それでは、今後とも、どうぞよろしくお願い申しあげます。


