メールマガジン「P.E.N.」バックナンバー

日本ペンクラブ・メールマガジン「P.E.N.」第31号2005年8月18日

第21回平和の日の集い(松山市)より 対談2〜阿刀田高VS浅田次郎 その2
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
┌---------------------------------------------------------------┐
  前号に引き続き、今年3月、愛媛県松山市にて開催した「平和の日」の集い
より、対談の要旨をお送りいたします。

  人気作家の阿刀田高さんと浅田次郎さんが「ものがたり」について語った
トーク、その2です。
└---------------------------------------------------------------┘

■リレートーク2「平和の日に想うものがたり」〜阿刀田高VS浅田次郎 その2

阿刀田 ところで、私は短編の書き手で、浅田さんは長・短編どちらもお書きです
が、長編小説というのは歴史と関係しているという気がします。
 歴史小説、時代小説が歴史と関係しているのは当たり前だけれども、現代小説だ
って現代の歴史や現代のありうべきものを書いているんですね。
 もちろん、短編もそうなんだけど、短編は同時に、会話と非常に関係があるんじ
ゃないかと思う。
 さっきの語りということとも関係があるんですが、長く語り続けるという長編的
な物語もある反面、日々の語りというのもあるわけです。
 実際、私は八百を超える短編小説を書いておりますが、その中のいくつかは、私
が見聞した面白い話です。
 新幹線の中で傍(かたわら)に座った若い夫婦が喧嘩をしていて、奥さんのほう
が、ごめんなさいって明るく謝って、喧嘩が解消した。帰りの新幹線でまたこの夫
婦と偶然に会って、また喧嘩しているんです。今度は夫のほうが謝って解消した。
 二人とも互いに、あまりに爽やかに謝ってるんで、思わず聞き耳を立てていた僕
に気がついたらしくて、東京駅で下りる時に、私のほうに振り向いて、「私たちは
喧嘩すると、奇数日は妻が、偶数日は私が謝ることにしているんですよ」と言うん
ですね。それを聞いて、これで小説ができたと思いましたよ(笑)。
 日常会話のちょっと面白いものが短編小説になるし、短編小説を読んでいると日
常の会話も少しは面白く弾むんじゃないかなと思う。

浅田 今の阿刀田さんの話、すごくよく分かる。短編小説のネタというのは、人か
ら聞いた話が多いですよね。それもちょろっと聞いた話が......(笑)。
 だから小説家って、書斎にこもりっ切りになって人に会わなくなったら、ダメで
すよね。いろんな人と会って、いろんな面白い話を聞いてれば、もう種は尽きない。
 長編小説はそうはいかなくて、やはり腰を落ち着けて、イメージを膨らませたり、
資料を引っ繰り返したりという手間がかかる。
 だから、短編作家と長編作家とは稼業違いじゃないかというのが、僕の持論なん
です。マラソンランナーと短距離走者ほどに筋肉の質が違うのではないかと思うん
ですね。

阿刀田 それはあるかもしれませんね。それから、小説家は生まれながらの嘘つき
の才がないとダメだ、というのが浅田さんの主張でしょう?

浅田 物語的才能というのは、文章力なんかとは別にあると思うんですね。文章を
書くには才能もセンスも必要だけど、数書いていれば誰でもある程度は上手になる。
努力次第でいくらでも達者になる。
 でも、嘘つきの才能というのは天性のものですよね。阿刀田さんも嘘つきでしょ
う?(笑)

阿刀田 生まれ落ちた時からの嘘つきというか......(笑)。
 人間には過去型と未来型というのがあるんだそうで、小説家は過去型なんですね。
その対極にいるのが、冒険家だと思う。冒険家は自分がどうしたかという過去のこ
とには関心がなくて、次は何に挑戦するかに関心があって、完全な未来型です。
 小説家は、過去に何をしたかと過去を非常によく見返るんですよ。少なくとも私
はそうですね。自分のことを見返してみると、物心ついた時から嘘つきだったなあ
という記憶がありますね(笑)。

浅田 小学校や中学校の教室で、嘘ばかり言って周りの人を面白がらせる子ってい
ますよね。あれは全員、小説家になれるんですよ。阿刀田さんもそうだったでしょ
う?(笑)

阿刀田 私はどちらかというと、引っ込み思案でした。ただ、自習時間などに前に
出てお話をしろと言われると、出て行ってましたね。最初のうちは、母や姉が読ん
でくれたお話なんかをやってたのですが、そのうち段々と作り話が入ってきました
ね(笑)。

浅田 まんざら嘘ではなく、本当の話をうんと面白くしちゃうタイプですよね(笑)。

阿刀田 それもある種の嘘で、詐欺師と同じ才能です。
 私小説なんて言うと、いかにも本当らしい話がいっぱいあるように思うけれど、
小説にはかならず嘘が入っています。
 でもね、例えば松山を舞台にした小説で最後に嘘を使おうと思ったら、松山の町
並みがどうであるかとか、ここからここまで歩くと何分かかるとか、そういうこと
はきちんと取材して、できるだけ本当のことを書く。こんなに本当のことが書かれ
ているから、最後のとんでもない話も本当かもしれないと、読者に思わせる。
 これは詐欺師と同じですよ。あるところまでは本当の話をばらまいておいて、最
後になったらぱっと嘘をつくわけです。それで嘘がちゃんと生きる。いかにも嘘つ
きみたいなことをやっていたのでは、小説は書けませんね。

浅田 詐欺師が詐欺師に見えたら、詐欺はできませんからね(笑)。

                 文章=理事・会報委員会委員長 清原康正
(次号も、阿刀田高さんと浅田次郎さんの対談を掲載します。どうぞお楽しみに)

=====================================
■公開講座のご案内
日本ペンクラブ発「ペンの学校」

「作家の眼、創作の芽」というテーマで、自作を生み出すきっかけとなる着眼点、
つかみ取った作品が芽生える瞬間について、毎月1人ずつ、さまざまな書き手が語
ります。

 これからの講師は、ごらんの通りです。

第5回 8月20日(土)15:45〜17:15 椎名誠(作家)
第6回 9月17日(土)15:45〜17:15 立松和平(作家)

受講料(税込)
各1回 カルチャーセンター会員3,150円 一般3,670円

会 場 朝日カルチャーセンター 
    新宿住友ビル(新宿区西新宿2-6-1)

交 通 地下鉄 大江戸線「都庁前駅」A6出口直結
    JR「新宿駅」西口より徒歩8分

お申込み先・お問い合せ先  朝日カルチャーセンター 電話03-3344-1945(直)
              (月)〜(土)10:00〜18:00(日・祝日は休み)

どうぞご参加ください。

=====================================
■ペンクラブ「電子文藝館」のご案内

 8月に新しく掲載された文藝作品です。

*評論・研究
高見 順(たかみ じゅん 作家・詩人) 「商品としての誠実について」
淺見 淵(あさみ ふかし 文藝評論家) 「藝術主義の頽廃について」
十返 肇(とがえり はじめ 文藝評論家)「文壇と批評」
三枝 博音(さえくさ ひろと 哲学者) 「日本の文学への眼」
松田 存(まつだ たもつ 国文学者)  「能の笛方鹿島清兵衛をめぐる人々」
伊藤 整(いとう せい 小説家・文藝批評家・詩人)
                    「近代日本人の発想の諸形式」

*反戦・反核
内村 鑑三(うちむら かんぞう 宗教家・思想家)「非戦論」

*主権在民史料
東京経済大学図書館蔵『深沢家文書』より「嚶鳴社憲法草案」
小田 為綱(おだ ためつな)        「憲法草稿評林」

*小説
前田河 廣一郎(まえだこう こういちろう 小説家)「三等船客」

*招待席
杉山 平助(すぎやま へいすけ 作家)「商品としての文学」

*読者の庭
神津 ふみ子(こうづ ふみこ 主婦)「『電子文藝館』最近掲載五人の詩を読む」

新設の「読者の庭」には、「電子文藝館」の掲載作品へ寄せられた、読者の
「評論・鑑賞・感想」を掲載します。

 閲覧はすべて無料です。ぜひご覧ください。
http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/index.html

=====================================
「ぺんぺん草」

 残暑のお見舞いを申しあげます。
 戦争が終わって60年目の夏となりました。

 日本ペンクラブでは、「いま、戦争と平和を考える」という集会を、2001年
から毎年開催し、多くのみなさんにお越しいただいています。

 今年の催しで、ペンクラブ会長の井上ひさしさんが行ったミニ講演の要旨が、
今月発行の「岩波ブックレット」に掲載されています。

『憲法を変えて戦争へ行こう という世の中にしないための18人の発言』
(岩波書店、500円、8月2日発行)です。

 どうぞご覧ください。