●日本ペンクラブ・メールマガジン「P.E.N.」第19号2004年10月26日
高橋千劔破スピーチ「歴史の中から環境保護についてアプローチ」
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前号に引き続き、春に開催されましたシンポジウム「第5回 環境の集い」
(日本ペンクラブ主催・アルカディア市ヶ谷)より、第2部ディスカッション
「環境文学とは何だ!?」から、文芸評論家の高橋千劔破(ちはや)さんのスピ
ーチを要約して、ご紹介します。
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□「歴史の中から環境保護についてアプローチ」高橋千劔破
私は、『花鳥風月の日本史』という本を書きましたけれども、日本は世界でもっと
も美しい国の一つでしょう。四季がはっきりしていて、水が豊かです。
その美しい自然を絵画に写す、あるいは音楽に映す、詩に吟じ、和歌に詠む、ある
いは物語や随筆など文学に表現するという伝統を長い間持ってきました。その伝統が
やがて様式化されて、明治になって新しい自然描写が入ってきたというお話を井上ひ
さし会長が前半でなさいました。日本文学の中には「万葉集」以来、自然が豊富です
。そうした伝統を、私たちは改めて再認識しなければならないと思います。
さきほど、井上会長が、芭蕉の句には雑木を詠んだものがないとおっしゃいました
が、実は、会長、あるんです。
「野ざらし紀行」という松尾芭蕉の句集の中に「奈良にいずる道のほど」として、
貞享2年2月中旬、現代の暦になおしますとちょうど今ごろであります、3月下旬から4
月にかかるころです。そのころに芭蕉は、伊賀から奈良へ出る山道を歩きます。その
ときにこんな句を詠んでいます。
春なれや 名もなき山の うすがすみ
この「名もなき山」、これは実は雑木の山なんですね。どうしてそんなことがわか
るのか。実はその後にもう一句あるんですね。
ふるさとや どちらを見ても 山笑ふ
その名もなきふるさとの山道を歩いて、名もなきふるさとの山なんですね。その山
が笑い始めたと。
山笑うということを皆さんの中で知ってらっしゃる方もいると思いますけれども、
早春のころ山が芽吹き始めて新緑に変わっていく過程を山が笑うというんですね。こ
れは雑木でないと笑わないんです。針葉樹も松も笑いません。落葉樹であるいろんな
雑木が小さく芽吹き始めます。そうすると薄緑色だったり黄色だったり、あるいは緋
色、赤だったり白かったり、いろいろな芽吹き方をするんですね。それが日一日と刻
々と変わっていって、やがてそれが緑に統一されていきます。若緑になって最後は緑
になっちゃうんですけれども。そういった過程の、山が芽吹き始めた状態を、何でも
ない雑木の山ですよ、その辺の、それを山笑うと表現して、春の山路を詠んでいるん
ですね。
そういうふうにして古典をみたり、歴史、文学をさぐっていくと実におもしろい。
私たちは文学作品を読むときでも、あるいは歴史資料を読むときでも、ドラマを見
るときでも、大切なもの、自然との付き合い方を忘れてしまっています。
先ほど井上会長もおっしゃったように、日本は水の豊かな国です。世界でも有数な
水の国です。
なぜ水が豊かなのか。山があるからですね。なぜ山があると水が豊かなのか。山に
木があるからですね。山に木があって、しかもそれが落葉樹の森であるから、ブナ林
とか。降った雨が山に保水される。あるいは冬に雪が降る。その雪が溶けていきなが
ら腐植土にしみ込んでいって、小さな清水をあちこちにつくる。それが集まって谷に
なり川になる。その水はきれいで、1年中、日本中どこへ行っても水が飲める。ある
いはちょっと掘れば清水が出てくるという、そういう美しい水の国だった。その水の
国にいながら、コンビニに行って水を買ってきて飲んでいるという、本当に恐ろしい
国になってしまった。
私はこれから自然とどう向き合っていくか、どのようにして自然を守っていくか、
いろんなことを考える上に、前を向いて走らないで後ろも向いたほうがいいと思いま
す。とりあえず立ち止まって後ろを振り向いてみようと。振り向くだけではなくて、
後戻りして、私たちが忘れてきた、歴史の中に忘れてきたいろいろなものを見直して
みると、そこにいろんなヒントがいっぱいあるんじゃないでしょうか。
私たちは、歩くということすらも忘れてしまった。道というと多くの人が、車が走
る道路を連想します。
本来は土の道で、曲がりくねっていて、人がその上を歩くためのものだった。川も
、さっきお話がありましたように曲がりくねっている。川の恵み、水の恵みをたくさ
んの土地に与えながら流れていく。道も曲がりくねっていて、その道をいろんな物資
が移動しますけれども、同時に文化も道を伝わって移動します。たくさんの土地土地
に恵みを与えるために道というのは曲がりくねっている。それをドーンと高速道路を
通す。山の中をトンネルつくって、あるいは大きな橋をかけて、あっという間に、1
時間でどこまで行けるかみたいな、どんどんそういう道をつくると文化が死にます。
私は日本の歴史や古典文学の中から環境問題、環境保護についてのアプローチを、
私なりにしていこうと、そういうことをやっているわけであります。
日本を含めて地球は今絶望的な状況に向かっているかのようではありますけれども
、希望を持ちたい、文学の力を信じたいと思いますし、文学に携わる私たちは、これ
からも表現と言う手段をとりながら、訴え続けていきたいと思います。これを、今日
の結びの言葉にしたいと思います。
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■委員会紹介〜その2「環境委員会」
日本ペンクラブは、13の委員会にわかれて活動をしています。
その1つ、環境委員会は、現在、委員長・斎藤純(作家)さんのもと、15人の委員
が、環境と文学についてのシンポジウムを開催、また過去には、諫早湾干拓事業への
反対表明と現地視察など、さまざまな活動を行っています。
環境委員会のホームページでは、18人の作家が、環境教育についてのエッセイを、
寄稿しています。
また各委員のプロフィールと著書もご紹介しています。
どうぞご覧下さい。
http://www.japanpen.or.jp/committee/kankyou/index.html
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■ペンクラブ「電子文藝館」のご案内
10月に新しく掲載された文藝作品です。
*反戦・反核
木島 始(詩人・1928 - 2004)「日本共和国初代大統領への手紙」
*招待席
嘉村 礒多(小説家・1897 - 1933)「七月二十二日の夜」
*短歌・俳句
加藤 克巳(歌人・1915〜)「ひとりのわれは」
閲覧はすべて無料です。
http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/index.html
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「ぺんぺん草」
夜の時間が長くなり、読書の季節となりました。
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さて、次号では、作家・エッセイストの米原万里さんの講演を掲載します。
どうぞご期待ください。


