メールマガジン「P.E.N.」バックナンバー

日本ペンクラブ・メールマガジン「P.E.N.」第15号2004年8月5日


第20回「平和の日」の集い(滋賀県)より 対談4〜井上ひさしVS阿木耀子

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
第20回「平和の日」の集いで行われた4つの対談より、4つめの対談をご紹介します。

対談4〜井上ひさし(作家、劇作家)VS阿木燿子(作詞家、作家)
テーマ「平和の日に想う水」
           (2004年3月3日 滋賀県大津市「びわ湖ホール」にて)

井上 私たちの組のテーマは「水」なんですが、阿木さんの水の思い出は?

阿木 物心ついた時から、水がとても好きな子だったらしくて、自分では水生まれ、
水でできていると思っていました。

井上 それは詩人の正確さですね。人間の体は60%が水で、脳は80%、血液は82%
だそうです。トマトは90%、魚は75%です。私たちは水そのものなんです。

阿木 河川の汚水などについては考えるのに、自分の中の水はあまり意識しません
よね。飲む水に敏感なら、出る水にも敏感でありたい。体内の水の声を聞くという
習慣は持ってないのですが、意識的に耳を澄ますということはありますね。

井上 水にまつわる強烈な思い出があります。人に聞いた話ですが、ひとつは、原
爆が落とされた広島での水です。1日で9万人が亡くなり、その後も30万近くの人が
亡くなりました。あの時に、水をあげてはいけないと言われ、水を求める瀕死の人
に水をあげなかったが、なぜ、あげなかったのか、心の傷になっているというんで
すね。もうひとつは、ロシアが打ち上げた有人ロケットで宇宙へ行った元放送記者
の秋山さんの水です。お会いした時に、宇宙で何を見たのかと聞いたところ、地球
が大きな水しずくに見えたと言うんですね。すごく深い、美しい水色で、それが地
球を覆っている。つまり、生命そのものですね。

阿木 地球は水の惑星と言われていますが、物質的な意味の水と水の精、つまり、
物質+オーラとがあると思います。そのオーラがあるから、水は美しい。生命も、
躍動しているからこそ美しい。私はいつも過渡期だと思っている楽天主義者なんで
すが、人間に悲観していないのは、私たちは学んでいくだろうと思っているからな
んです。地球は破滅的な状況にあるとは思うけれど、水の再生力はもっとパワーが
あると思います。

井上 世界は大きな水で、そこにいろんな試験管が立っているんですが、水を通し
て全部がつながっており、それぞれの水の高さは平均しているわけです。例えば、
モルディブには1200もの島があって、最高標高は1メートルだそうです。その島々
が、今、どんどん沈み始めています。日本でも水位が上昇しつつあり、低い島が沈
んできている。水を通して、すべてつながっているんです。

阿木 水を物質でとらえるのではなく、オーラでとらえると、つながっていること
が分かります。自分の中の水は琵琶湖につながっている、と思います。ただ、意識
では分かっていても、あなたと私というように対立するもので考えがちなんですね。
自分の中の水の声を聞く、自分の本質は水と考えれば流せる、つまり、相手を許せ
る、理解できる、という気がします。水は流れてこそ水で、水は流れたがっていま
す。揺らしてくれと言ってます。留まると、水は死ぬんですよ。

井上 日本の年間雨量は2000から4000ミリで、世界でも有数の水が豊富な国です。
そんな日本で、なぜ、外国のペットボトルの水を飲むのか、ということですね。僕
も仕事中によく水を飲むんですが...。

阿木 私もよく水を飲みますが、水を買うということには今も抵抗がありますね。
水にお金を使うのはおかしいと思いつつ、買っています。

井上 たくさんの雨が降る日本では、豊富な水を利用して水田を作り、米を栽培し
てきました。水田は小さなダムなんですね。しかし、私たちの年代になって、日本
の大切な米や水の文化という昔からの積み重ねを片っ端から壊しているんですよ。

阿木 水に対して敬意を払うことを忘れてしまっているのではないかと思いますね。
水への敬意、感謝をこめながら、水を飲むということです。身体をひとめぐりして
出ていく水、人体は喜びのバイブレーションで満たされて、初めていい振動になる。

井上 自衛隊のイラク派遣で、現地の人たちがまず言ったことは、水をなんとかし
てほしいということでした。イラクを流れるユーフラテス川にはダムがありますが、
水量が減ってきているそうです。日本のダムの水も少なくなっています。われわれ
は水をいじりすぎていると思います。どっかへ重心が傾きすぎて、日本が干上がっ
てきているような感じがします。

阿木 美しい流れに指をつけた時、私の指は水に恋をしたというエッセイを書いた
ことがあります。指を水につけた時、離したくないと思った。水に守られ、水に恋
をしなければならない。人は水に恋をして、進化を遂げてきたのですから。

井上 水仕事のよさ、水遊びのよさを再確認していきたいですね。僕は皿洗いが大
好きなんです(笑い)。琵琶湖の水は滋賀県の水だけでなく、全国に、そして世界
につながる水だということですね。
                     〜構成・清原康正(文芸評論家)〜

 この催しは、NHKの衛星第一放送で、3月27日17時から、また再放送が29日10
時から放映されました。
 来年、第21回「平和の日」の集いは、愛媛県松山市で2005年3月3日に開催され
ます。
======================================
■日本ペンクラブ委員会紹介

 ペンクラブは、さまざまな委員会に分かれて活動をしています。
 これから随時、各委員会をご紹介していきます。
┌--------------------------------------------------------------┐
 
  その1)WiP(ライターズ・イン・プリズン=獄中作家)委員会

  WiP(ライターズ・イン・プリズン)とは、言論活動や文学作品の執筆・
出版などで政府や権力を批判したり揶揄したため弾圧を受けたり、投獄され
た作家・詩人・ジャーナリスト・編集者たちのことです。
  日本ペンWiP委員会は、国際ペンWiP委員会と連携して、その人々の釈
放を求めるアピールを出したり、シンポジウムを行って社会に広める活動を
行っています。

  たとえば、5月には、中国広州のタブロイド紙「南方都市報」の記者が、中
国政府によって逮捕・不当な判決を受け拘留されている件に対して、緊急の
アピールを出しました。

  日本ペンクラブのWiP(獄中作家)委員会について、委員長の今野敏さん
 に執筆していただきましたので、ここに掲載します。

└--------------------------------------------------------------┘

 WiP(獄中作家)委員会は、日頃どういう活動をしているのかよくわからない。
そういう声がありましたので、この場を借りてちょっと説明したいと思います。

 年間を通じての私たちの大きな活動の柱は2つあります。

 その1つが10月に開催する「WiP(獄中作家)の日」のイベント、もう1つが、
言論弾圧による、作家・ジャーナリストなどの不当な逮捕の事例を調査するミッショ
ンです。
 そのほかに、日常的にアピールや要請を出す活動もしています。

 WiP(獄中作家)委員会は、日本ペンクラブの中の委員会であると同時に、ロン
ドンに事務局を置く、国際WiP委員会の下部組織という側面があります。
 国際WiP委員会からは、日々いろいろなニュースが流れてきますが、その中でも
重要なものに、RAN(Rapid Action Network)があります。
 世界各国のリサーチャーからのレポートをもとに、緊急性の高い事件については、
電子メールなどを通じてRANとして報告されます。

 そのRANで報告される事案から、地域的に関連の深いもの、あるいは委員が強く
関心を持つものなどについて、アピールを出すことがあります。

 例えば、今回のようにアジアの国で言論弾圧によると思われる逮捕があったような
場合、当該国の首脳あるいは担当部局の責任者宛に、釈放を求めるアピールを送るわ
けです。

 緊急性を要するので、委員長名でアピールを出し、理事会では事後承諾を得ること
になります。

 今回の事例を説明しましょう。
 今年の3月に、中国広州のタブロイド紙である広州紙「南方都市報」(Nanfang Dushi
Bao)の記者2名(喩華峰Yu Huafeng、李民英Li Minying)に、国際的にみて公正と
は思えない判決が下り、さらに1名、程益中(Cheng Yizhong)の記者が逮捕されまし
た。

 「南方都市報」の編集長代理である喩華峰は、贈収賄の罪状で12年の刑を、また李民
英記者は、それに関連する事件で11年の刑を宣告されました。
 さらに、同時期に同紙の編集長である程益中が、同じく汚職の容疑で旅行中に逮捕
され勾留中です。

 「南方都市報」は、広州の警察当局による学生の撲殺事件や、SARSの情報など、
公表されていない情報をレポートするなどで注目を集めていた矢先の出来事でした。
その流れから判断して逮捕そのものが公正なものとは思えません。

 国際WiP委員会は、この事案を憂慮し各国にアピールを要請しました。日本のW
iP(獄中作家)委員会もそれにこたえて、緊急のアピールを出すことにしました。
 私たちは、今後も日常的にこうした活動を続けていきます。
                〜WiP(獄中作家)委員会委員長 今野敏〜

┌--------------------------------------------------------------------┐
  WiP委員会のサイトです。
  どうぞご覧ください。
  http://www.japanpen.or.jp/committee/gokuchu/index.html
└--------------------------------------------------------------------┘

======================================
■新刊のご案内

『バイトの達人』
(原田宗典選・角川文庫・本体価格552円+税・2004年7月25日刊)

 20人の人気作家が、アルバイトについて書いたエッセイ集です。
 1993年に福武文庫より発行されましたが、好評につき、再刊されました!

目次

 関川夏央『一九七三年のストライキ』
 吉本ばなな『青い夜』
 沢木耕太郎『ネクタイの向こう側』
 宮本輝『夕刊とたこ焼き』
 原田宗典『近くて遠い銀座』
 さくらももこ『健康食品三昧』
 椎名誠『六本木で夜だった』
 立松和平『古本屋の店主』
 安岡章太郎『ガラスの靴』
 四方田犬彦『十七歳のケーキ工場』
 村上龍『ジョン・レノンのこと』
 村上春樹『午後の最後の芝生』
 吉田健一『乞食時代』
 島田雅彦『ぼくは肉体労働をする』
 五木寛之『東京の空の下で』
 遠藤周作『「グウタラアルバイト」のお話』
 中野翠『寅さん映画と庶民コンプレックス』
 郡ようこ『カミナリは知っている』
 高橋章子『十八歳のまんじゅう売り』
 武田百合子『誠実亭』

 どうぞ書店でお求めください。

======================================
「ぺんぺん草」

 いつもメールマガジン「P.E.N.」をお読みいただき、ありがとうございます。
 編集後記があれば......というご意見をいただき、これから時々、ほんの数行ですが、
肩の凝らないことなど書きたいと思います。
 ペンクラブでは、毎月1回、理事が集まって理事会を開き、多くの議題について話し
あいます。場所は、日本橋兜町にあるペンのビル、あるいは東京會舘の会議室......。
 でも盛夏の8月だけは、理事会がお休みです。
 みなさまもどうぞ良い夏の休暇をおすごしください。