メールマガジン「P.E.N.」バックナンバー

日本ペンクラブ・メールマガジン「P.E.N.」第14号2004年7月14日


第20回「平和の日」の集い(滋賀県)より 対談3〜吉岡忍VS落合恵子

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
第20回「平和の日」の集いで行われた4つの対談より、3つめの対談をご紹介します。

対談3〜吉岡忍(ノンフィクション作家)VS落合恵子(作家)
テーマ「平和の日に想う子ども」
           (2004年3月3日 滋賀県大津市「びわ湖ホール」にて)

吉岡 先ずは、落合さんがやっておられるクレヨンハウスの最近のイラク企画につい
て伺わせてください。

落合 29年前からやっている子どもの本の専門店なんですが、イラクの子どもたちが
リアルタイムで描いた絵の原画展を開催しています。いちばん描きたい絵を描きなさ
いと言われて、戦車の絵しか描けない子どもがいる。訴えたいことを描いてください
と言うと、爆弾が炸裂する絵になってしまう。それがイラクの子どもたちの今の姿で、
そんな絵しか描けない子ども時代というものを考えないといけないなと思います。

吉岡 一昨年の3月、パレスチナで自爆テロをした17歳の少女の家族に会いに行きま
した。その犠牲になった同年のイスラエル人少女の家族にも会った。看護婦をめざし
ていた加害者と報道写真家を志していた犠牲者、この2人が死んでいくことは絶望的
ですよ。犠牲者は、自分たちがパレスチナ人にいかにひどいことをしているのかを写
真で伝えたい、と言っていたそうです。

落合 何年か前に『子供たちの戦争』という写真集を翻訳しました。著者はレバノン
生まれのマリア・オーセイニという女性写真家で、レバノンやパレスチナで写真を撮
り続け、戦火の中で出会った少年に「大人になったら、何になりたいか」と聞いたら、
その少年は「大人になったら、子どもになりたい。なぜなら僕には、子ども時代がな
かったから」と答えたそうです。これと同じことがイラクで起きている。いつもこの
くり返しがあることは忘れてはならない。

吉岡 アフガニスタンのカブールへ行った時のことですが、夜になると悲鳴がいっぱ
い聞こえてくるんです。家族や友人を殺された人たちの悲鳴でした。23年間も戦争が
続いた国なんだ、ということを実感しました。テロはいけない、報復はいけないとい
うことを政治的に語ると、どうしてもごまかしが入ってくる。子どもたちに過酷な現
実を作り出しているということについて、鈍感になってくる。

落合 基本に平和がないと、美しさも豊かさも感じられません。子どもの環境問題に
ついて、今、それぞれの大人にできることは何かを、もう一度問いかけたいですね。

吉岡 常に戦争状態にある国に暮らし、家族を殺された子どもたちが置かれた苛酷な
状況、環境を、メディアはきちんと伝えていかなくてはいけない。少年犯罪の調査・
取材をしてきて、僕は環境が子どもに影響していることを言い続けてきました。少年
犯罪が報道されると精神分析医が出てきて、社会から切り離して論じてしまうんです
ね。

落合 同感ですね。子どもたちにとって、周囲の大人は環境のひとつなんですね。自
分たち大人がひどい社会、環境を作り出してしまったという、子どもたちへの後ろめ
たさを持たないといけない。

吉岡 事件、犯罪、戦争を、子どもたちにどう説明することができるだろうか、本当
に難しい。

落合 それには新しい言葉を紡ぎ出して使うしかないですね。

吉岡 日本ペンクラブでは、声明文を出して反対を表明するだけでなく、言葉の力を
作り出す大切な試みとして、『それでも私は戦争に反対します。』(平凡社、1680円
〔税込〕、2004年3月)を出したんです。

落合 バーバラ・リーというアフリカ系アメリカ人の女性がいます。アメリカのアフ
ガン報復に反対したたった1人の上院議員で、彼女との公開討論会で、反対すると誓っ
たら、1人でも反対するというのは、どこで習ったのかを聞いてみました。両親に習っ
た、と言うんですね。

吉岡 時間の重層性や暮らしの多様性というものがなくなってきてますね。少年事件
を起こした子どもたちにも、イラクでも、この2つがなくなっています。

落合 自分自身の身の回りにかけがえのないものを持っているかどうかですね。不穏
な社会の中で、自分自身に「たった1人でもノーと言えるか」という問いかけをしてい
きたい。大きな風に飛ばされないための基本は、丈夫な頭を作ることだと思います。

吉岡 今回の自衛隊のイラク派遣で言えば、絶対に報道してくれるなという要求と絶
対に報道してくれという要求がなされています。こういうのが今、始まっているんで
すね。かつてよりはるかに、私たちはメディアに影響されていますね。

落合 情報の洪水の中で1人の時間と空間を持ち、ちょっと立ち止まって見ることが大
切ですね。

吉岡 1日1回、誰かを励ます言葉を使いたいなと思います。

                   〜構成・清原康正(文芸評論家)〜
┌----------------------------------------------------------------┐
  次回は、対談4〜井上ひさし(作家、劇作家)VS阿木燿子(作詞家、
作家)のトーク「平和の日に想う水」を掲載します。
└----------------------------------------------------------------┘

======================================
■自衛隊の多国籍軍参加に反対する声明

 日本ペンクラブは、6月23日、自衛隊の多国籍軍参加に反対する声明を、井上ひさし
会長名で各報道機関に発表しました。

 全文は、ペンクラブのHPに掲載しています。どうぞご覧ください。
 http://www.japanpen.or.jp/seimei/040623.html

======================================
■ペンクラブ「電子文藝館」のご案内

6月から7月にかけてに新しく掲載された文藝作品です。

*小説
島崎 藤村(ペンクラブ初代会長) 「伸び支度」
正宗 白鳥(第2代会長) 「口入屋」
村山 暁生 「池のほとり」

*詩
望月 苑巳 「雪月花」

*招待席
大宅 壮一 「『無思想人』宣言」
龍膽寺 雄 「放浪時代」
三原 誠  「ぎしねらみ」
新井 紀一 「怒れる高村軍曹」
石久保 豊 「兜」
中村 正常 「アミコ・テミコ・チミコ」
長田 幹彦 「零落」
森 鴎外  「身上話」

閲覧はすべて無料です。
現在では入手できない貴重な文学作品も収載されています。
ぜひご覧ください。
http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/index.html