招待席

大塚 甲山

おおつか こうざん 詩人、俳人、歌人。明治13年(1880)〜明治44年(1911)。青森県生まれ。明治35年(1902)、上京、河東碧梧桐、与謝野鉄幹な どの知遇を得る。その後、森鷗外、上田敏らと交流。明治37年(1904)、社会主義協会に入り、坪内逍遥の紹介で反戦詩を「新小説」に発表したほか、多 数の詩を「新小説」、「明星」、「平民新聞」などに掲載した。その後、故郷に戻り、「東奥日報」の俳壇・歌壇の選者を務めた。肺結核で31歳の短い生涯を 閉じた。掲載作のうち「冬の蝶」は「文庫」明治34年1月号、「農夫」は、「読売新聞」明治37年10月16日付で初出。『明治文学全集83 明治社会主 義文学集(一)』(1965年7月、筑摩書房刊)により収録。

冬の蝶・農夫

冬の蝶

灰色深き冬空の
見る\/雨のこぼれきて
はだへに告ぐる寒き日を
覚束なくも飛ぶ蝶よ。

春は菫の花に泣き
夏は小百合の香に酔ひて
闌なりしその夢は
萩吹く風にさめたるか。

つらく悲く淋くて
われも泣きたきこの雨よ
なが脆くして美しき
羽をうたするになど耐へん。

夕くれさればこの雨は
やがて雪ともかはるべし
さらば凍えんなが命、
それとも知らで飛ぶことか。

長らふまゝに吹きつのる
嵐烈しき世と知らば
紅葉がもとから
埋めたらんに口惜しく。

われもこの世は佗び果てゝ
暫しは歌にかくるれど
まださめやらぬ胸の血ぞ
来ても縋れや冬の蝶。
   ◯
石の上に白き胡蝶の凍えたり。

農夫

帰牛きぎうの群にまじりつゝ
帰る農夫の簑のに、
胡桃の葉散る村外れ、
秋の葉黄ばむ森の上。
牛と無心に野辺に出で、
牛と悠々家を指す、
あゝ生涯はたひらかの、
村のこみちの如くなり。
美なる自然のふところに、
かき抱かるゝ幼子をさなごと、
言はゞや言はん、聞けうたふ、
罪なき恋の一節ひとふしは、
彼等の父も其父も、
ここにとなへし調なり。

Otsuka Kozan
日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
This page was created on Mar 04, 2009
総目次