招待席

小熊 秀雄

おぐま ひでお 詩人。1901(明治34)年〜1940(昭和15)年 北海道小樽市生まれ。少年期は漁師や炭焼きの手伝いなどをし、青年期には旭川で地元新聞 の記者をしていたこともある。1928(昭和3)年、上京。1931(昭和6)年プロレタリア詩人会に参加、口語を駆使し旺盛に時代を撃ち続けた。掲載作 は生前は未刊行の作品だった。1982年岩波書店刊「岩波文庫」から「東京風景」について独自の感性で書いたものを選んで抄録。電子文藝館には「蹄 鉄屋の歌」、「馬 上の詩」が、掲載されている。

丸の内・銀座ほか

目次

東京駅

東京駅は
ウハバミの
燃える舌で
市民の
生活を呑吐する
玄関口、
朝は遅刻を怖れて
階段を一足とび
夕は
疲れて生気なく
沈黙の省電に乗る
所詮、悪蛇の毒気に触れて
人々の
麻痺は
不感症なり。

丸の内

『戦争に非ず事変と称す』と
ラヂオは放送する
人間に非ず人と称すか
あゝ、丸の内は
建物に非ずして資本と称すか、
こゝに生活するもの
すべて社員なり
上級を除けば
すべて下級社員なり。

地下鉄

昼でも暗い中を
走らねばならない
お前不幸な都会の旅人よ、
地下鉄を走るとき
爽快な風が吹く
でも少しも嬉しくない
政治といふ大きな奴の
肛門の中を走るやうだから
地下鉄は
つまり多少臭いところだ。

銀座

もし東京に裏街といふものが
なかつたら
銀座は日本一の表街だが、
表は表だが
銀座は
医者にひつくりかへされた
トラホームの眼瞼のやうだ
ブツブツと華美は でで賑やかな
消費の粒が
まつかにただれて列んでゐる
突如
  ウヰンドーに
煉瓦を投げつけて
金塊を盗む悪漢現る。

Oguma Hideo
日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
This page was created on Apr 30, 2009
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