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乾 直恵

いぬい なおえ 詩人。1901(明治34)年〜1958(昭和33)年。高知県生まれ。東洋大学国文科卒。百田宗治の『椎の木』同人として詩壇に登場。室生犀星 や伊藤整、三好達治と知り合い、『詩と詩論』、『文芸レビュー』などに詩や俳句、評論などを発表。主な詩集は『肋骨と蝶』『花卉』『海岸線』などで、独自 の抒情詩を展開した。掲載作は『日本現代詩大系 第9巻』(河出書房刊)によった。

花卉か き』抄

目次

神の白鳥

神さまが、膝でスワンを慈しむ。
御手にふれたこの抜け羽毛

ぼくは冷たい歌を思ひ出す、
ねぐらを さがす小鳥のやうに。

ぼくはあなたの毛皮のなかへ走りこむ、
ストーヴに、こゞえ た両手を翳すために。

ぼくはあなたのスヱーター・ポケットにも ぐりこむ、
団欒の、明るいピアノを聴くために。

睡れる幸福

黎明あ けがた、あなたはきつと、機織音でぼくの夢を揺ぶる。
あなたの震はす指先に、露に濡れそぼつたスワン・リヴア・デイジイが咲いてゐる。

を さの中で、
幻の星条が消えたり燈つたりする。

ぼくは渺かに、織りかけの薄絹う すものを見る。
淡彩のシヨールが極の方へ靡いてゐる。

あなたは何時の日か、黙つてぼくに指ざしたマ マ
――幸福はあすこに睡つてゐる。と……

極光

あなたは三角洲の葦間から、
流暢な各国語でぼくに喋りかける。

ぼくはいちいちそれを懸命に、
速記する、翻訳する。

――アノ橋ノ袂ニ、アノ橋ノアチラガハノ袂ニハ……
――誰カガムカフ岸ニ、誰モムカウマ マ岸ニハ……

長い鉄橋が半分夕陽の中へ折れ込んでゐる。
渡りかければ、ぼくも光のなかへ隕ち込むだらう。幸福をかゝへ て、不幸をい だいて――

Inui Naoe
日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室
This page was created on Jan 18, 2010
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