活動記録・レポート

日本出版学会/日本ペンクラブ 第2回合同シンポジウム報告

「日本版デジタル・アーカイブを構想する」
 〜公共基盤・民間運営・表現の自由の観点から〜

2009年7月27日(月) 午後6時~午後8時半
東京電機大学(神田キャンパス) 7号館 丹羽ホール

【パネリスト】
 長尾 真(国立国会図書館長)
  「国立国会図書館のデジタル化計画と今後の課題」
 秋重 邦和(大日本印刷株式会社 常務取締役)
  「コンテンツインフラの運営と将来像」
 三田 誠広(作家 日本文藝家協会副理事長)
  「著作者にとってのデジタルアーカイブ」
 山田 健太(専修大学 日本ペンクラブ言論表現委員会委員長)
  「表現の自由の立場からの問題提起」
 植村 八潮(東京電機大学出版局 日本出版学会副会長)=司会
  「出版インフラの概況報告」

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 アメリカのグーグルブック検索訴訟の和解協定案(以下、和解案)は、日本でも、デジタル・アーカイブのありようを議論する好機となっている。6月30日に続いて、日本ペンクラブと日本出版学会が、7月27日に第2回の合同シンポジウムを開いた。タイトルは、「日本版デジタル・アーカイブを構想する〜公共基盤・民間運営・表現の自由の観点から〜」。日本ペンクラブでは、表現の自由の観点から、グーグル和解案には、懸念される課題があるということで、9月初めまでの期限内に、異議申し立てをする方針で、準備を進めている。

 その中での第2回シンポジウムである。会場の東京電機大学には、あいにくの天気にもかかわらず、第1回より、数十人多い、200人以上が集まり、午後6時から、専門家の熱心な話し合いに耳を傾けた。。

 今回のシンポジウムは、アメリカでは、グーグルが、大学図書館などに所蔵されている書籍のデジタル化に踏み込んだのがきっかけとなったことで、日本の国立国会図書館が、既に進めている電子図書館サービスの是非を巡って、議論が集中した。今回は、紙幅の関係もあるので、ここに的を絞って、シンポジウムの様子を報告する。国立国会図書館は、今年度の補正予算で、従来の1億円の予算が、127億円にふくれあがり、1968年までの図書、戦前の雑誌、博士論文、古典籍、官報など約90万冊をデジタル化する計画に着手した。その背景として、ふたつの法改正がある。ひとつは、2009年6月の「著作権法」の改正で、この結果、国立国会図書館は、資料保存の目的で「許諾なく」図書・資料のデジタル化が可能になる。また、もうひとつは、2009年7月の「国立国会図書館法」の改正で、国、地方公共団体、国立大学、独立行政法人などのウエッブサイトを「許諾なく」収集することが可能になる。シンポジウムでは、そういう背景を説明した上で、長尾館長は、電子図書館システムで、「いつでも、どこでも、だれでも」が、国立国会図書館収蔵の書籍などを利用できるようになると強調した。

 これに対して、民間企業として、アート(美術品)画像のデジタル化を進めている大日本印刷の秋重常務は、劣化するアートを「遺し、活用し、広める」ために1986年から、画像のデジタル化に取り組んで来た軌跡を説明し、デジタル・アーカイブの分野での、官と民とのバランスの重要性を主張した。作家の三田氏は、自分の体験を踏まえて、絶版になるより、デジタル化されて作品が後世に残されることのメリットを上げていた。

 こういう発言を聞いていて、私は、次のような懸念を覚えたので、書いておきたい。聞きようによっては、今回のシンポジウムは、官、民、作家の、「デジタル・アーカイブ賛成大合唱」に聞こえて来はしまいか。マスメディアからネットメディアへの変貌に象徴されるように、メディアは、「公共性」から「私」に、急激に変化している。つまり、「公共性」の構築が、激しく、希薄化している。デジタル化の流れは、世界の趨勢である。そういう中で、デジタル・アーカイブという、新たな「情報の収集・整理・価値付け」という根本行為が、「誰かに独占される危険性が無いのかどうか」という懸念がある。それは、官であっても困るし、グーグルが着手したような一私企業でも困る。公私に関係なく、独占は困るのである。民主主義社会は、多様で、多元的な価値観を前提とし、なにか新たなことに直面すると、改めて「公共性」を構築するということで、国民主権が担保されていると思う。それを保障する手段が、国民の知る権利に裏打ちされた表現の自由である。

(なお、会場では、日本ペンクラブ「電子文藝館」のデモンストレーションも行われ、参加者は、熱心に聞き入っていた。)

文責/大原雄(言論表現委員会委員・理事)