●言論表現委員会・人権委員会シンポジウム「いま、表現があぶない!」
言論表現委員会・人権委員会シンポジウム
2001年9月18日(火) アルカディア市ケ谷
〈シンポジウム〉「いま、表現があぶない!」- メディア規制を考える - 言論表現委員会・人権委員会
9月18日、アルカディア市ケ谷にて「いま、表現があぶない」というシンポジウムが開催された。パネラーは以下の五人。猪瀬直樹言論表現委員長がコーディネーターを務めた。 井上ひさし(劇作家・作家)/米原万里(エッセイスト)/清水潔(元フォーカス記者)/田島泰彦(上智大教授)/梓澤和幸(弁護士)
テーマがメディア規制問題とあって、当日はテレビ局の取材も複数入った。この半年ほど、メディア規制問題をめぐっては様々な団体のシンポジウムが開かれてきたが、言論表現委員会と人権委員会の共催というのは、いかにもペンクラブらしい。表現に対する公権力の規制には絶対反対だが、同時に報道被害など人権の問題も考えていかなければならない。ペンクラブの現在の立場は、簡単に言うとそんなふうにまとめられると思う。実際、今回のシンポジウムでも、井上さんや米原さんらから、メディアの現状に対する厳しい意見も表明された。
当日は午後6時半に開演。最初に三好徹副会長から開会の挨拶、次に言論表現委員会副委員長の篠田より、この間のメディア規制問題への取り組みの報告が行われ、本題に移った。
まずコーディネーターの猪瀬直樹言論表現委員長から、ペンクラブの声明や方針についての説明をまじえながら、全体の問題提起がなされた。憲法21条の言論表現の自由とは、GHQの覚え書きに公的機関にアクセスする自由と明記されたもので、メディアは本来、強気をくじき弱気を助くものである。ところが現状はどうであるのか、また国家による規制を受けると国民がどう困るのか、きょうはそれを議論しなければならない、と。
憲法・メディア法が専門の田島泰彦教授は、メディア規制の三点セットの問題点を、個人情報保護法を中心に述べた。法案を見る場合、(1)本来規制すべきものがきちんと規制されるようになっているか、(2)表現の自由など配慮がなされるべき点に配慮がなされているか、の二点を見なければならない。ところが今回の法案は、国への規制はなされず、保護すべき報道・取材活動が規制されるという、極めて危険なもので、メディアが幾重もの官庁の監督のもとに置かれることになる。こういう事態は日本のメディア史上初めてのことと言ってよい。
元『フォーカス』記者の清水潔さんは調査報道を通じて警察より先に犯人を特定し、警察批判のキャンペーンを張った桶川ストーカー殺人事件の報道を体験を踏まえて説明。個人情報保護法ができると「情報源の秘匿」などにおいて規制を受けることになり、調査報道ができなくなると述べた。
井上ひさしさんは、米国テロ事件で「報復は絶対」と呼号し、そうでない結果の世論調査を敢えて無視するといった現在のマスコミ報道を批判。自分は「表現の自由」の制約にも反対するがメディアも批判する、きょうは「一人二役」でやっていくと表明し、会場の拍手と笑いを誘った。
米原万里さんは、約15年前、妹のプライバシーに関することで自宅に取材陣が押しかけた経験を話し、群がった取材陣に「個人」としての顔がなく、彼らは商品としての情報が欲しかっただけだと話した。そして、言論の自由が法的に保障されているかどうかだけでなく、情報がただの商品になり下がっている現実も問題だと述べた。
人権問題に取り組んできた梓澤和幸弁護士は、今日圧倒的な量の情報を管理しているのは国家であるのに、個人情報保護法では肝心の公的機関の情報支配に規制がかからないことが問題であると批判。表現の自由についてはメディアと市民との平等な話しあいが保障されるべきで、プレスオンブズマンや報道評議会が日本でも早急に作られるべきだと提案した。
この後、「表現の自由」と「知る権利」の問題など、それぞれのパネラーが発言。また会場から電子メディア研究会の秦恒平さんがメディア規制とコンピュータの問題を、言論表現委員の吉岡忍さんが今回の個人情報保護法案は国際基準から見ても問題が多いことなどを指摘した。さらに人権委員会の小嵐九八郎さんや、一般 参加者のテレビ局社員などからも発言があった。
シンポジウムは最後に、竹田青嗣人権委員会副委員長の閉会挨拶で終了した。参加者は百数十人だった。
個人情報保護法案は今の臨時国会で審議される予定で、いよいよメディア規制問題は正念場を迎える。井上ひさし副会長はシンポでの発言をこういう言葉で締めくくっている。「私たちは信念をもってこの法案の成立を身をもって防ぎます。まっとうな知る権利、報道できる自由というのを、これから読者とちゃんと作っていかないといけません」
(文責=篠田博之・言論表現委員会副委員長/月刊『創』編集長)


