活動記録・レポート

第70回国際ペントロムソ大会報告

2004年9月6日〜12日
トロムソ(ノルウェー)

第70回国際ペン大会は2004年9月6日から12日までの7日間、トロムソ(ノルウェー)で行われた。


国際ペン理事 堀武昭


1.北極圏トロムソの印象

異国の地を訪れた時の最初の印象がその旅の行方を決定的なものにすることが多い。かつて司馬遼太郎は紀行記をものにするため、多くの地を訪れたが、その国なり地方なりを表現するにあたり、飛行場に降り立った直後の印象で、全体の文章の流れを決めると良くいわれたことを思い出す。私の場合、長いフライトの後、地上に足が触れた瞬間、まず反射的に股覗きをする。その途端、日常の風景が非日常の世界に転換する。

トロムソではそれをする必要が全くなかった。アラスカより北に位置する極北の地(ほぼ北緯70度の緯度にある)であるという一種の緊張感と、それでいて人間の居住環境として許容できるのような、ほんのりとした温もりが僻地のローカル空港の待合室に充満していたからだ。何匹かのエスキモー犬が、飼い主の傍で大人しく誰かを待っていた。

この最初の印象がそのまま会議の会場まで持ちこまれ、私は国際ペンの理事に当選して以来、初めてリラックスした雰囲気で、かつ、もっとも有益な会議(国際ペン総会を含め)に臨むことが出来たといえる。

私が国際ペン大会の代表として始めて出席したのは1989年のトロント・モントリオール大会である。この年は振り返ってみると世界の歴史が大きく転換した年であった。西の世界ではソ連邦が会議直前に崩壊し、それにつれ、ソ連の衛星国であった東欧がいっせいに民主化されたときであり、他方、東では中国で天安門事件が生じ、若い学生が戦車の下敷きになるという悲劇的事件が起きた年でもあった。それゆえ、ペン大会は会議開催前から異様な興奮状態にあり、まともな議論が出来ない状況にあった。第二次世界大戦後の国際ペンの悲願であった「表現の自由と基本的人権の回復」が一方で実現される傍ら、中国ではまったく逆の事件が同時に起きたことの意味を、参加者は理解しかねていた。

それから15年、国際ペンをめぐる情勢は大きく変わった。東西冷戦に代わってパレスチナとイスラエルの紛争が国際ペンの場に持ち込まれ、その支持をめぐってアメリカとヨーロッパが大きく対立し、それが沸騰点に達したのが、例の911テロ事件である。以来、国際ペンは本来の目的からややもすると逸脱し、解決不可能ともいえるイデオロギー問題に翻弄され、各国ペン・センターはもちろんのこと、国際本部事務局まで巻き込んでの不毛な論争を重ねるようになる(この経緯については日本ペン月報に逐次報告済みなのでご参照願いたい)。

そうした議論の不毛さに気付き、会長、事務局長はいうに及ばず、特別委員会会長を含む主要執行部の大幅交代という大英断が今回の会議で決定的になったことである。国際ペンがようやく本来の軌道に戻ったという意味で、今回の会議は画期的なものとなった。


2.今大会の評価


こうした事情もあったのだろうか、日本は会員の一般参加を含め、総勢10名で会議に臨んだのだった。これは地元のノルウェーを除くと最大の派遣団であり、参加者リストにズラリと日本人の名前が印刷されたのを見て、参加者は改めては日本における文学活動のレベル、国際ペンへの関心の強さに感心するのだった。

それにしても会員が個人の力量を充分に発揮、それぞれ得意の分野、すなわち詩の朗読会や女性問題シンポジウムに参加、積極的に発言してくれたのは心強いことであった。

国際ペン大会が終了した翌日、特別理事会が開催され、我々は更に1日トロムソに滞在することを余儀なくされたが、いままでの理事会と違い、全員が和気藹々のうちに総括を行うことが出来た。理事に就任して以来、始めての出来事でもあった。

この場で、私は国際ペン大会が正常化したことを評価すると共に、この機会を活用し、総会と理事会はもちろん、一般会員を対象とした本来の企画、すなわち討論会、朗読会、ワークショップを一層充実させ、いわゆる2本建て路線で進むことを提案、全員一致で了承されたことを報告しておきたい。


3.今後の戦略について



振り返ってみるとなんと皮肉なことだろうか。国際ペン事務局の強化、ならびに曖昧のまま長いこと放置されてきた規約の不備を指摘し、その整備作業に本格的の取り組むべき、と主張した言い出しっぺは日本ペンだったからだ。それが契機になって(いずれの国際組織にも共通の現象と言ってしまえば、それだけのことだが)、国際ペンはイデオロギー闘争、人事をめぐる熾烈な争いに巻き込まれ、本来の目的から逸脱することしばしばであったが、今回の会議でテリー・カールボム事務局長が退任し、これで旧執行部が完全に去ったという意味で感慨深い大会となった。

それでなくても生来、ものごとの先行きを心配するライター達の集団である国際ペンだから、新体制の行方に懸念を示す輩も少なからずいる。しかし、当面はこの執行部に全幅の信頼をゆだねるしかあるまい。

ただ、人権活動家として知られるジョアンナ・アッカーマン女史が事務局長に選出されたことから、徐々にアメリカ思考の人権外交が国際ペンの政策にも影響を及ぼすことは避けられまい。

ということは、ミャンマー、ベトナム、中国、チベットなど多くの懸案事項を抱えるアジアへの攻勢が一層強まることを意味する。日本ペンは好むと好まざるとに関わらず、独自の姿勢を国際ペンの場において明らかにせざるを得ず、難しい舵取りが必要になってこよう。

事実、彼女の就任に勢いづいた独立中国ペンセンターは北京のペンセンターに対して公開質問状を出すと共に、トロムソで非公式ながらこの問題に対して討論会を持っている。


4.今後の理事会の主なアジェンダ


今後、理事会が重点をおくと予想される主な活動としては下記のような分野が予想される。



A) 国際ペン事務局の財政建て直し

B) 各センター間におけるコミュニケーション、連帯強化(本部による資金援助を含む)

C) 国際ペン機関誌の充実(ファンド・レイジングが急務)

D) 規約の更なる整備と拡充

E) センターならびにペン会員資格の明確化

F) スペイン語を中心とした公式言語の充実

G) 決議案提案のための諸手続き明確化

H) ロンドン・オフィスの強化(人員増を含む)

I) 国際ペン主導によるプログラム企画強化(ユネスコを含む)

J) 評議会の人選とファンド・レイジング、およびアドバイザー機能の強化