●女性作家委員会シンポジウム 「女性が書くとき」--共生・ハードル・幻想--
日本ペンクラブ女性作家委員会シンポジウム
2001年12月4日(火) アルカディア市ヶ谷
12月4日(火)、アルカディア市ヶ谷において、「2001年女性の生き方『女性が書くとき』--共生・ハードル・幻想--」をテーマに日本ペンクラブ女性作家委員会シンポジウムが開催された。
女性が物を書くときいったい何が起こるのか、女が書くことの意味を問い直していこうというこの日のシンポジウムは、下重暁子常務理事の挨拶に続き、林真理子氏の基調講演、2組のパートナー作家によるパネルディスカッションという順序で進められた。
基調講演(林真理子氏)要旨
「今年ちょっと印象的なことが2つあった。1つは『女流文学者会』の会合で、女流という名称が古いのではないかという話が出たこと。もう1つは中央公論新社が出していた『女流文学者賞』が、その名称が時代にそぐわないということで『婦人公論文芸賞』に今年から変わったこと。このことは、今『女流』という言葉が排除されつつあることを物語っている。
作家に男女差別はない。本当に実力だけの世界で、私たち女性作家は今伸び伸びと楽しく仕事ができる。むしろ女性であることが得な世界ではないかと思っている。小説やエッセイの分野では女性の感性は歓迎され、デビューもし易い。
女性にはある種、露悪的なところがあり、男性にはかなわない強さ、失うものが少ない強みというようなものがある。男性がたじろぐようなことも平気で書けるというような図太さも女性の特質で、私が18歳で『ルンルンを買っておうちに帰ろう』というエッセイを書いた時にはずいぶん顰蹙を買ったし、今小説でそういうシーンを書くと、よくあんなことを書けると言われるが、私にとっては自然なことであり、(繊細で傷つき易い面もあるが)鈍感な野太いところは小説を書く女性に多く見られる特質であると思う。こういうものを武器に私たちは出版界で伸び伸びと活躍できる。
直木賞をはじめ9つの賞の選考委員、理事などをやっているが、おそらく私のレベルで男性だったらなれないだろうと思う。そういう意味でも女性であって得だなと思っている。
このように伸び伸び物が一言えるのも諸先輩方のお陰である。昔の女の作家は大変だった。貧乏で器量も悪くて他にすることがないという切羽詰まった女の作家たちがいろんなセクシャルハラスメントに遇ってきたということは確かに言える歴史的事実らしい...」
また、女学校の時『赤い鳥』で最優秀賞を取って鈴木三重吉に絶賛された今年86歳になる母のことを少し話してみたいと、ご家族の話へと続いた。
この日はシンポジウムを掛け持ちしているという林氏の講演は理路整然として淀みなく30分間、150人の聴衆を釘付けにした。
引き続き、与那覇恵子委員のコーデイネートでパネルデイスカッションに移った。今回は「パートナーのひみつ」と題し、夫婦で「書く」という仕事をしている2組のカップルに、そのメリット、デメリットなどを本音で語ってもらおうというもの。
1組目は東山あかね(作家・翻訳家)、小林司(精神科医・作家)夫妻。お2人は夫婦で「日本シャーロック・ホームズ・クラブ」を創立。シャーロック・ホームズに関する共著は65冊にのぼる。
はじめに東山氏が「共著の作品については、どちらが主でどちらが従ということは一切なく、半分半分の仕事をしている。毎朝の犬の散歩の間や、旅行の移動の間などにアイデアの交換をする。また、年中2人で顔を付き合わせているので日常生活の中でも意見交換ができる。生活時間帯のズレはメールの交換で補っている」と、仕事の仕方を紹介。
夫婦で一緒に仕事をすることについては「短所はなく2人でやっていて良かったという部分が多いようだ」と述べ、その長所として、視点が増え多面的な見方ができる、互いにないものを補完し合うことができる、互いに誉め合うことができるという3点を挙げた。特に第3の誉め合うという点については夫婦作家の絶対のメリットだと強調。
続いて小林氏が「良さそうなところは全部言われてしまった...」と前置きをしつつ、夫婦で作家をやっていく秘訣として、この日のテーマにもある「共生」の精神がないとやっていけないということ、「砥石」の存在も必要だということ、共通した基盤が必要だということの3点を挙げた。
2つ目の「砥石」の存在については専門分野の「シャーロック・ホームズ物語」の中のワトソンの話や、カウンセリングの来談者中心セラピーを例に挙げて「私は女流作家の妻の才能を光らせる砥石の役目。ただ話を聞いてあげることで相手がますます研ぎ澄まされ光ってくる、そういう役まわりをしようとしている」と発言。
少女のような雰囲気の東山氏と穏やかで物静かな小林氏、一度も喧嘩をしたことがないというのも頷ける、そんな印象であった。
2組目は小谷真理(文芸評論家・SFファンタジー評論家として活躍)、巽孝之(文芸評論家・アメリカ文学者)夫妻。SFファンタジー、現代文学の翻訳、研究を行っている。
小谷氏も夫婦で一緒に仕事をすることのメリットを「創造的な面ではアイデアを啓発され、精神的な面では一歩を踏み出す後押しをしてもらえるという意味で非常に良い」と述べた。
一方、ダークな一面として氏が現在裁判で闘争中のテクスチュアルハラスメント事件に触れ「昔に比べると今の女性は白由に物を書き、本を出すことができるが、その先の評価の基準が前の時代のさまざまな性的偏向を負っている。昔は大変だった、今は解消されたかというと、実は見えないところに問題はある」と、表面化されないが根強く残る女性差別の現状を訴えた。
小谷氏の発言を受け、巽氏は夫婦で同じ仕事をすることについて「基本的にはいいことだと思う」と述ベ、そのメリットとして、相手が自分にないものを持っているところ、互いが互いの最初の編集者であり読者であるというところなどを挙げた。また、「同じ分野なので書く範囲が狭められるのではと言われるが、むしろ逆に別の方向が開ける」とも。
小谷氏のテクスチュアルハラスメント事件については「二人が同じ仕事をしているとはいってもそのスタイルは異なる。そのことは編集者もわかっていたはずなのに、そこから小谷真理は巽のペンネームだというような話が出たのは心外。スキャンダル狙いである」と発言。
年内に結審するという裁判の話が前面に出た形になったものの、夫婦で物を書くということについては小谷・巽夫妻も東山・小林夫妻同様非常にうまくいっているという印象を受けた。
最後に入江曜子女性作家委員会副委員長は「この企画を立てる時、私はうまくいっている人の話を聞いてもなんにもならないと言ってただ一人反対した。今日のゲストはうまくいっている人ばかりだったが、今の社会まだまだ物を書く女性にとって平等な社会とは言えない。今後も引き続きこの問題について考えていきたい」と締めくくった。
文=広報委員会委員五代香蘭


